2017年02月10日 1464号

【シネマ観客席/スノーデンSNOWDEN/オリバー・ストーン監督 2016年 米・独・仏 135分/巨大盗聴網を暴いた動機】

 2013年6月、米国家安全保障局(NSA)が大量の個人情報を極秘かつ違法に収集し、謀略活動に利用していることが発覚した。米国政府が大手通信企業の協力の下、「テロ」とは何の関係もない一般市民の監視を日常的に行っている事実が具体的な仕組みとともに初めて明らかにされたのだ。

 内部告発したのはNSAやCIA(米中央情報局)で働いていた青年エドワード・スノーデン、当時29歳だ。9・11事件に危機感を抱き、志願兵として特殊部隊に入隊したこともある愛国青年がなぜ、「米国最大の国家機密」を暴露するに至ったのか。オリバー・ストーン監督の『スノーデン』は、彼の内面に寄り添い、告発の動機と背景を掘り下げた映画である。

 国のために働こうと理想に燃えた若者が、腐敗した内部事情に幻滅し、反逆者になっていく−−本作品はストーン監督のベトナム戦争映画『7月4日に生まれて』を継承した作品といえる。創作や映画的誇張はあるものの、スノーデンが内部告発に至った経緯をわかりやすく描いている。

 ただし、スノーデンが暴露した内容を観客が「ある程度知っている」ことを前提にした作品なので、そうでない者は物語に没入できないかもしれない。というわけで背景説明を少し。映画でも描かれているが、スノーデンはこの日本でも監視活動に携わっていた。

 スノーデンはコンピュータ会社デルの社員として来日し、東京都福生(ふっさ)市で2年間暮らしていた。勤務先は、米軍横田基地内にあるNSA日本本部。米国のスパイ活動は民間企業を隠れみのにして行われている。

 ジャーナリストの小笠原みどりによると、NSAは少なくとも第一次安倍内閣時から内閣府、経済産業省、財務省、日銀、同職員の自宅、三菱商事の天然ガス部門、三井物産の石油部門などの計35回線の電話を盗聴していたという。対象となったのは金融、貿易、エネルギー、環境問題など。テロとは何の関係もない(『サンデー毎日』2016年6月19日号)。

 日本での監視拠点は、横田基地のほかに横須賀基地、三沢基地、嘉手納基地などで、約千人が信号諜報にあたっているという。米軍基地は戦争の遂行だけではなく、監視・盗聴を主要な任務としているのである。

 また、国際海底ケーブルが米国に上陸する地点で、ケーブルを通過する大量の情報をNSAのデータベースへと転送する工作も行われているという。インターネット情報の大半は米国内の回線、サーバーを通過する。あなたのメール、サイトの閲覧記録、SNS上の交友関係、撮影した画像、すべてが米国政府に収集されているのである。

 「発言や行動のすべて、愛情や友情の表現のすべてが記録される世界になど住みたくありません」。スノーデンは告発に協力したジャーナリストにこう明かしている。人間として当たり前の怒りを本作品を観て共有したい。   (O)

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