2017年02月24日 1466号

【どくしょ室/オキナワ島嶼戦争 自衛隊の海峡封鎖作戦/小西 誠著 社会批評社 本体1800円+税/住民守らぬ先島大軍拡を暴く】

 沖縄県の先島諸島に自衛隊基地が次々と建設されている。国境の島である与那国島に弾薬庫を含む基地、宮古島には住宅地の中に巨大なレーダー基地が建設中、石垣島にもミサイル部隊が配置予定である。そのために増強される部隊は1万人規模とされる。加えて増援や緊急機動展開するための約4万人が編成されつつあり、島嶼(しょ)防衛作戦のために5万人以上の動員が想定されている。

 この大部隊の増強を自衛隊はどのようにして捻出するのか。北海道と九州を除いて戦車部隊をゼロにするなど、自衛隊始まって以来の大再編を行おうとしている。先島諸島への基地建設は国境線への実戦部隊配置であり、中国からすれば「戦争挑発」に映るだろう。だが、この動きについて、メディアは報じることがなく、国会での追及もない。本書は、「島嶼防衛」の名による先島大軍拡の実態と背景にある戦略を明らかにし、警鐘を鳴らす。

 本書の概要は次のようになっている。まず、前述したように島嶼への配備実態が示される。そして、そこにはどのような経過と根拠があるのか、を探っていく。そのために公開資料だけでなく秘匿(ひとく)されている資料からも引用しつつ、島嶼防衛作戦の全体像を解き明かそうとしている。

 経過と根拠についてみてみよう。陸上自衛隊の最上位の教範である「野外令」が2000年に改定され、初めて島嶼防衛作戦と上陸作戦が策定された。04年の防衛大綱で島嶼防衛論の全面化が明記され、05年からはそのための演習がスタートしている。10年には米軍のエアシーバトル構想が打ち出される。中国の海空戦力・対艦・対地ミサイルに対する「対抗的中国封じ込め戦略」である。対中戦争を限定するためにその修正版としてオフショア・コントロールが出された。これは自衛隊を主力とする戦争とされる。

 14年の防衛大綱が中国脅威論をあからさまに展開し、16年の防衛白書が中国との対抗をむきだしで強調している。すなわち、東アジアの軍拡競争をあおり激化させている。そのことで「自衛隊を主体的に島嶼防衛戦に動員することが、米中経済の緊密化の中で、より根本的に重要となる」と著者は分析する。辺野古の新基地建設もこの文脈のなかで見ていく必要がある。

 こうした戦略は根本的な問題点を含んでいる。島嶼での避難場所は学校等とされる。ミサイル攻撃や全島への砲爆撃を考えれば、住民保護がないに等しい。自衛隊自身「住民避難は困難」と認めており、徹底的な破壊で草木も残らない焦土を生みだすことははっきりしている。島嶼防衛は軍民混在の防衛戦であり、戦史上も「成功例」がない。軍隊は住民を守らないのである。

 著者は、住民を守る対抗策として無防備都市宣言を提唱している。  (I) 
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