2017年03月10日 1468号

【国策企業東芝の破たん 3・11後の反原発の力が背景】

 「名門中の名門企業」、東芝が不正経理問題をきっかけに倒産の危機に瀕している。2月14日に予定していた2016年4〜12月期の決算発表はまたも延期に追い込まれた。原発事業で膨らんだ債務総額がいくらなのか誰もわからない異常事態。なぜこんなことになっているのか。

監査法人、国も一体の犯罪

 東芝問題は単なる不正経理の問題ではない。背景には、全世界的に危険でコスト高となった原発事業が行き詰まっている事実がある。

 東芝を経営危機に陥れた直接の原因は、2006年に行った米国の原子炉メーカー、ウエスチングハウス(WH)社の買収にある。東芝は、原発事業が斜陽化し、経営が悪化していたWHを約6600億円で買収した。

 その後、WHの子会社(東芝の孫会社)である米国の原発工事会社、ストーン&ウェブスター社が原発工事費の高騰により7000億円近くの巨額赤字を抱えていたことがWH買収後に発覚。東芝は一気に窮地に追い込まれた。

 6600億円の買収金額は、東芝とともにWHの買収競争に参加して敗れた三菱重工幹部でさえ「その半分でも高すぎる」と言うほど実態とかけ離れていた。東芝は、実際は3000億円程度しかないとわかっていたWHの資産価値と、買収に費やした金額との間で帳尻を合わせるため、差額約3600億円を「のれん代」として無形固定資産に計上する会計処理で乗り切ろうとした。

 「のれん代」は、2006年の会社法改定以前は「営業権」と呼ばれていた。例えば「江戸時代から300年続く老舗」など、特別の企業価値を生むとされる評判や名声がある場合に、そのブランド価値を資産として計上できるようにするための制度だ。日本では、買収した企業について、買収価格が実質的な企業価値を超える場合、その差額をのれん代として計上する会計処理が広く認められてきたが、実勢とかけ離れた不当に高額の企業買収をした場合にまでそうした処理を認めるのは粉飾決算を容認するものだ。

 実際、東芝がWHに関連して計上したのれん代は「不正経理」問題発覚によってわずか10年で減損処理(価値がなくなったものとして資産から除く会計処理)に追い込まれた。このこともWH買収の無謀さを示す事実である。

 しかも、東芝の不正な会計処理に、当時の監査法人も経産省もお墨付きを与え容認していた。「原発は国策だから、何があっても国が救済してくれる」との認識の下に、東芝、監査法人、経産省が一体となって損失を隠そうとしたグローバル資本による犯罪であり、日本政府も同罪だ。

追い詰められる原発企業

 米国政府による原発の安全基準は、もともとは軍用機の墜落によって原子炉が破壊されなければいい程度の緩いものだった。ところが、2001年の9・11テロを契機に大型旅客機の墜落にも耐えられることが条件になった。福島原発事故後はさらに、溶け落ちた燃料がこぼれ出ない原子炉の設計が求められた。

 こうして米国での原発建設コストはどんどん上昇。1979年スリーマイル島原発事故以降、1基の原発も新増設されないばかりか、多くの原発が市民の反対運動や「コスト高」により次々と閉鎖に追い込まれた。2014年バーモント・ヤンキー原発(北東部バーモント州)を廃止に追い込んだのは、5年にわたる市民の粘り強い反対運動だ。

 市場原理主義が徹底される米国で原発が新増設されず廃炉が続く。「原発が最も安いエネルギー」という経産省の宣伝は全くのうそだ。

原発に未来はない

 そもそも、事故を起こした福島第1原発の3号機は東芝が設置したもの。本来なら東芝は、東京電力とともに廃炉・除染・避難・賠償などに責任を負わなければならない立場だが、原子力損害の賠償に関する法律(原賠法)で不当に免責されている(注)。だが、日本を代表する大企業が、免責されているにもかかわらず倒産の危機を迎えているのを見ると、原発に未来がないことは明らかだ。

 日本でも、福島原発事故後、50基ある原発のうち稼働中は4基に過ぎない。動かない原発の維持費だけがかさみ続けることで、日本の原発関係企業は窮地に追い込まれている。反原発運動の力だ。このまま再稼働を阻止し続ければ、原発廃炉に追い込める。

(注)原賠法では、原発事故の賠償責任は電力会社のみが負うと定め、原発メーカーなどを免責している。



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