2017年03月17日 1469号

【「共謀」隠した共謀罪法案/適用拡大歯止めなしも変わらず/市民の監視・分断・萎縮を狙う】

 共謀罪法案の全容が明らかとなった。「『共謀罪』とは別物、『テロ等準備罪』だ」と安倍晋三首相が強調したのとは裏腹に「テロ」の記載もなく、別物どころか瓜二つ。むしろ、「人権侵害の危険性は飛躍的に高まった」との批判が相次ぐ。臨戦国家が必要とする治安弾圧法であることがますます鮮明となった。

「テロ」対処は無関係

 共謀罪を創設する「組織犯罪処罰法等の一部改正法」の政府原案が2月28日、自公両党に提示された。政府与党はすぐにでも調整を終え、閣議決定、国会提出、そして採決に持ち込もうと動き出した。

 「今国会最大の与野党対決法案だ。テロ未然防止の観点から、この法案がどう必要なのか、しっかり審議していただきたい」。公明党漆原良夫中央幹事会長は党内に呼びかけた。ところが、看板だった「テロ」の記述がないとの与党内からの指摘に早くも手直しを余儀なくされている。

 「テロ」が抜けたのはある意味当然。法案の提案理由とされた「国際組織犯罪防止国連条約」がもともとテロ対策のためのものではないからだ。

 条約は、国境をまたぐマフィアらによる金銭的・物質的な利益を得る犯罪、つまり麻薬や人身売買、マネーロンダリング(資金洗浄)などを対象としている。「目的が非物質的利益にあるテロリストグループや暴動グループは原則として含まれない」(国連の立法ガイド)のだ。

 政府は、条約は法定刑4年以上の犯罪に共謀罪創設を求めているとして、全676件の犯罪を対象にしてきた。だが、厳しい批判の前に対象犯罪を277に絞った。全犯罪に共謀罪が必要とする政府の前提を自らの手で崩した。そもそも条約が求める国内法の整備はできている。新たに共謀罪を創設する必要はない。条約批准を口実とした「テロ準備罪」=「共謀罪」創設はもともと無理な筋立てだった。

 まして、安倍の言う「オリンピック・パラリンピック開催」と共謀罪は何の関係もない。テロ対策の国際的枠組みとして「爆弾テロ防止条約」「テロ資金供与防止条約」をはじめ5つの国連条約、その他8つの国際条約がある。日本はこれら13条約をすべて締結している。日本の法制度では、予備罪・準備罪を他国以上に広く処罰対象とし、その数は70以上に及ぶ(刑事法研究者の反対声明より)。

 さらに、過去15年間の犯罪情勢は大きく改善されており、安倍自身「世界で最も治安のよい国」をオリンピック招請の宣伝文句にしてきたのではなかったか。政府の言い分から、277もの犯罪に共謀罪を新設する理由も必要もないのは明らかだ。

「計画罪」は共謀罪と同じ

 政府はその一方で、「共謀」を「計画」と言い換えるなど、その場しのぎの小細工をし、「別物」に仕立てようと懸命だ。組織犯罪処罰法に追加された犯罪(第6条の2)は「実行準備を伴う組織的犯罪集団による重大犯罪遂行の計画」罪。条文には、「(組織的犯罪集団による犯行を)2人以上で計画した者は、…いずれかにより計画に基づき資金又は物品の手配、関係場所の下見その他の…準備行為が行われたときは、…刑に処する」と書かれている。

 「準備行為」が処罰要件だから、「内心・良心」を罰するものではないと政府は言い張る。だが、「金を下ろす」「切符を買う」などの日常的な行為すら犯罪と結び付けられ、準備行為とされる。加えて「その他」と無限定な文言が付け加えられている。どんな動きでも準備行為と見なすことができ、処罰することができる。カンパをするのも受けるのも、組織犯罪の準備行為とされてしまう。

 「依然として、犯罪を共同して実行する意思を処罰の対象としていることと実質的には変わらない」 (日本弁護士連合会意見書)のである。

 さらに条文には、「実行を着手する前に自首した者は、…刑を軽減し、又は免除する」とのただし書がある。組織犯罪に「自首」による刑軽減を設けたのは、「密告」を促すためだ。おとり捜査の協力者も得やすくなる。「知人があやしい」と警察に届けることが自分を守る道になる。相互監視社会へと誘導する効果を狙っているのだ。

濫用は歴史が証明

 法案が明らかとなった2月27日、日本労働弁護団や自由法曹団など法律家6団体は、「政府の目的は市民の監視、市民運動の弾圧にある」とする声明を発した。通信傍受法の対象犯罪の拡大や司法取引の導入など捜査権限が強化された中で、「過去3度の法案よりも人権侵害の危険性は飛躍的に高まっている」と指摘している。

 こうした指摘が大げさでないことを、歴史は教えている。

 共謀罪法案と類似し、世界有数の悪法と称される治安維持法は、1925年「国体の変革または私有財産制度の否認を目的とした結社」を処罰する目的で制定された。「協議」も処罰の対象だった。同法はその年、植民地であった朝鮮での独立運動に適用され、国内では軍事教練反対運動を口実に京大をはじめ全国の大学で社会科学研究会の学生多数の検挙に使われた。

 以降、28年死刑導入、41年にも改悪が行われ、45年10月廃止までの20年間、猛威をふるった。共産主義者だけでなく、自由主義者や宗教者などあらゆる反政府運動の取り締まりに使われ、同法による獄死・病死は1600余人、送検された者は7万人以上、逮捕者は数十万人に上る。

 「テロ対策」との偽りの看板を掲げてすべての市民を監視し、さまざまな運動にかかわること、声を上げることをためらわせ、萎縮させる。99%の民衆が共通の敵に向かって一つになることを分断しようと謀(はか)る。それが共謀罪法案なのだ。



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