2017年03月24日 1470号

【本当のフクシマ/原発震災現場から/番外編 除染利権に群がる大企業/安倍自民党に巨額の政治献金/住民無視の「復興」の象徴】

 福島で除染は順調に進んでいるという国・県の説明は事実なのか。この質問に答えるのは意外に難しい。

 国・県は線量が下がったと宣伝しているが、福島原発から放出された放射性物質には半減期が2年と短いセシウム134が大量に含まれていた。線量低減が除染の効果か自然減衰か検証するのは困難だ。

線量を確認せず

 そもそも何をもって除染完了というのかに対する考え方も、国や県と市民とではまったく異なる。国・県が言う除染とは除染「作業」の意味でしかないと筆者は断言する。仕様書に定められた通りに汚染土をはぎ取り、土を入れ替え、または「天地返し」(上と下の土壌を入れ替えること)をする。おざなりに行われる線量測定は単なるセレモニーに過ぎない。

 それを証明する資料がある。環境省と福島県生活環境部が共同作成した「福島県除染作業共通仕様書」だ。この仕様書は、国・県から除染事業を受注した業者にとって作業の手引きとなる重要なものだが、驚くのは業者が国・県に進捗状況や終了を報告する「履行報告書」「業務完成引渡書」だ。どちらの書類にも放射線量を記載する欄がない。除染は放射線量を低減するための事業だから、業務開始前と完了後の放射線量を比較し、下がっていることを確認しなければ除染と言えないにもかかわらずだ。

 だが実際には業者は国・県に放射線量を書類で報告せず、国・県も書類では確認をしない。仕様書に書かれている「作業」さえすれば、放射線量など下がらなくても業務完了となり、業者には税金から代金が支払われる。放射線量を記載する欄がないのは、「下手に記載などされては困る」(効果がない)ことを国も県も業者も知っているからだろう。放射線量を下げるという本来の意味での除染は、今なおほとんど進まない。

ずさんな作業

 「地元の顔の見えるお客さんとの間で信頼関係を築いてきたのに、いい加減な仕事はできない。だからと言って線量が下がるまで丁寧にやっていては利益なんて出ない。受けませんよ」。もし除染の仕事が来たら受けるかという質問に、筆者と仕事上の付き合いのある地元零細建設会社の関係者H氏は答えた。「除染でいい思いをしているのは県外から来て適当な仕事をしている連中ですよ」とも付け加えた。

 除染には多くのゼネコンが関わっている。飯舘村(いいたてむら)で国直轄の除染事業を受注したのは大成建設だ。沖縄・辺野古の新基地建設工事やカネまみれ東京五輪のための国立競技場建設も受注。政治的に汚い案件に必ずと言っていいほど顔を出す大成建設に、地元業者のような良心はない。

 2012〜2014年度の政治資金収支報告書を筆者が独自調査したところ、福島県内の土建業界から国民政治協会(自民党の政治資金団体)に1700万円もの巨額の政治献金が行われていた。この3年間の全国の土建業界から自民党への献金は約3400万円。献金全体の半分が福島県からのものだった。主要被災3県(岩手・宮城・福島)で自民党にこれほど巨額の献金をしたのは福島県の土建業界だけだ。

 2016年度の福島県当初予算案は一般会計で1兆8819億円。その55%に当たる1兆384億円が「震災・原子力災害対応分」に重点配分された。この重点配分が巨額の政治献金に対する自民党からの「お礼」であることは明らかだ。

 筆者は、この事実を福島県内メディアに伝え報道するよう要求したが、全メディアが黙殺した。国も県も土建業界もメディアもすべてが腐りきっている。

2兆6千億あれば

 3月3日、環境省は2012年3月から今年3月までに、2兆6000億円の除染費がかかる見通しだと明らかにした。効果の確認すら行わない「お手盛り事業」にこれだけの巨費が投じられたのだ。

 「自主」避難者に住宅無償提供を続けるための費用を福島県は年間50億円と試算している。福島県外へ「自主」避難した人の引越費用は1人平均72万円とした調査もある。事故前の福島県の人口は約202万人。その人口に引越費用を掛けると1兆4500億円だ。除染に使ったカネがあれば、福島県民全員の県外避難ができたことになる。もちろん「自主」避難者の住宅無償支援も可能だった。なんという税金の無駄遣いだろう。

 3月2日、除染事業をめぐり業者から接待を受けた収賄容疑で、環境省福島環境再生事務所専門官が逮捕された。接待したのは県外の業者。H氏の言葉通りの展開になった。大企業ファースト、住民無視で進められてきた福島「復興」にふさわしい結末だ。

      (水樹 平和)



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