2017年03月31日 1471号

【放射線審議会の機能強化? 「年間20_で避難解除」の法令化狙う】

 マスコミではほとんど取り上げられることがないが、今国会に放射線障害防止技術基準法の「改正」案が提出されている。主要な改定は、放射線防護の基準などを検討する放射線審議会の「機能強化」だ。現在の審議会は関連省庁から諮問を受けて答申するという立場だが、改定後は逆に審議会から各省庁に向けて提言する機関へと転換するという。その狙いはなにか。

足かせの公衆被ばく限度

 2月9日付の読売新聞社説「放射線審議会 民主党政権時の基準を見直せ」がその問題意識を代弁している。

 曰く、「東日本大震災後、放射線を巡る科学的根拠に乏しい情報が、インターネットなどで流布され、福島の復興の足かせとなっている」「科学的には、100_シーベルト以下の被曝による健康への影響はないとされる。国際放射線防護委員会(ICRP)は、これに余裕を見込んで、20_シーベルト以下で避難措置を解除し、長期的に1_シーベルトを目指すとの考え方を示している」「今では政府も、こうした方針を掲げているが、法的な規定はない。被災地には『1_シーベルトの呪縛』が根強く残る。住民が帰還をためらう一因になっている」

 つまり、年間1_シーベルトという公衆被ばく限度が復興の足かせとなり、住民の帰還をためらわせているが、年間20_シーベルト以下なら健康被害などない。この状況を打開する必要がある、ということだ。

根拠薄弱な年間20_シーベルト

 いま全国の30近い地裁で原発事故の賠償を求める裁判が争われている。その裁判で避難者(原告)側が避難の根拠としているのが公衆被ばく限度である年間1_シーベルトだ。「放射能被災者だけがその20倍の基準を適用されるのは二重基準だ」と政府の対応を非難している。

 年間1_シーベルトは、原子炉規制法を根拠とする経産省の省令、放射線障害防止法、医療法、労働安全衛生法の電離放射線障害防止規則など多くの法令に規定があるのに対し、20_シーベルトの避難基準≠フ根拠は「原子力緊急事態宣言」下における本部長(内閣総理大臣)の「指示」しかない。

 したがって「緊急事態宣言」が解除されれば20_シーベルト基準は根拠を失ってしまう。政府は、一方で「緊急事態宣言」を維持しながら、他方でその「緊急事態」が続いている場所へ避難者を戻そうとしている。これはどう理屈をつけようとも正当化できない。

 政府もその矛盾は感じている。そこで出てくるのが、原発事故時の20_シーベルト基準の法令化である。

 もともと20_シーベルトは、ICRPの2007年勧告にある「緊急被ばく状況」と「現存被ばく状況」における参考レベルに依拠している。前者は原発事故が発生し大量の放射能が環境に放出され続けている状況をいい、年間20〜100_シーベルトが参考レベルとされる。後者は大量放出は止まったが汚染環境からの被ばくが継続している状況で、年間1〜20_シーベルトが参考レベルとされる。

 政府の言い分は、「緊急被ばく状況」の低い方の20_シーベルトを避難基準とし、「現存被ばく状況」の高い方の20_シーベルトを下回ったから避難指示を解除するというものだ。

 「100_シーベルト以下の被曝による健康への影響はない」が政府の見解だ。だが、実際には100_シーベルト以下の低線量でも固形がんや白血病が増えている調査研究結果が相次いでいる。

被ばく強要許さない

 政府の言い分に従った場合、空間線量が年間10_シーベルトの地域に10年間住めば、単純計算では累積線量が100_シーベルトに達する。政府は健康被害における「累積100_シーベルト」の「累積」をわざとあいまいにし、それとの比較で「年間20_シーベルト」を低く見せようとしている。先に引用した読売社説も累積100_シーベルトと年間20_シーベルトを比べて世論をミスリードしようとしている。

 チェルノブイリ法は年間被ばく限度を「1_シーベルト」とするが、それは事故後に生まれた子どもが70年生きたとしても累積で70_シーベルトを超えないという「生涯被ばく限度」とセットのものだ。原発事故があろうとも、政府が公衆被ばく限度(年間1_シーベルト)を超える被ばくを国民に強要することは許されない。

 今回の法改悪の狙いは、放射線審議会を提言機関に変えることにより、ICRP2007年勧告の「参考レベル」を法令に取り込む作業を加速し、現行の避難基準20_シーベルト≠ノ法的根拠を与えることにある。避難者を切り捨て被ばく強要を進める策動を許してはならない。

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