2017年04月07日 1472号

【あらゆる市民を監視する 共謀罪法案を許さない/共謀罪は人権侵害だ】

 3月21日、安倍内閣は共謀罪法案を閣議決定し、国会へ提出した。「組織犯罪処罰法改正案」の体裁をとる。この法案は、すべての市民を政府の監視下に置き、国家の意思に従わないあらゆる団体・個人を犯罪者として取り締まることを目的とする一億総監視・弾圧法だ。

心の中を処罰

 日本の刑事法(刑法をはじめとして政府が犯罪を取り締まるための一連の法律)は、実行された犯罪を裁くことを原則とする。

 この原則は人権に由来する。

 自由である人が唯一行動を制限されるのは、他者の権利を侵害する場合だ。人の財産を損なう行為は「窃盗罪」、人を脅して平穏な生活を乱す行為は「脅迫罪」、人の生存権を奪う行為は「殺人罪」だ。「罪」を定め、その罪を犯した人に責任をとらせるために市民の代表である政府が「罰」を与えることになる。結果に対する責任をとらせるのが刑事法の原則だ。権利侵害のないところに罪はなく罰もない。この原則は、基本的人権である自由権を権力の横暴から保護するためのものだ。

 だから、実行の失敗=未遂が罪とされるのは、殺人などの重大な犯罪に限られている。

 ところが法案は、実行に移さない=権利侵害が発生していないにもかかわらず「考えること(内心)」「相談すること(内心の表明)」を「共謀罪」とし処罰する。行為、結果ではなく、心の中を罰する。これは刑事法の原則の根本的変更であり、国家による重大な人権侵害を許す。

2人以上で対象

 政府は、犯罪が国際化し組織化しており、「国際的な組織犯罪の防止に関する国際条約」の締結で国内法を整備する必要があるとする(法案提出理由)。だが、そもそも「国連国際組織犯罪防止条約の締結にこのような立法は不要」(刑事法研究者の声明)であることが広く明らかになっている。

 対象とされる組織犯罪集団は、もともとの組織犯罪処罰法で「共同の目的を有する多数人」とされるだけだ。2人でも犯罪組織とされる。

 安倍政権は、テロ対策と印象付けるために共謀罪を「テロ等準備罪」と呼び、御用メディアにその名を使わせる。しかし、法案では「テロリズム集団その他の組織的犯罪集団」であり、「テロ集団」は犯罪集団の一例に過ぎない。しかも「テロ」の定義すらない。安倍首相は国会で「一般の団体が組織的犯罪集団に一変することもある」と答弁しており、2人以上のあらゆる集まりが捜査対象となる。

 「共謀罪」が適用される罪は277に上る。中には特許権・商標権の侵害や脱税など「テロ行為」とはかけ離れたものも多数紛れ込んでいる。

 「共謀罪」は「組織的犯罪集団」の2人以上が計画すれば「罪」とされ、実行の準備に着手した時点で罰せられる。

盗聴・盗撮で監視

 「罪を犯した」とするためには、警察・検察など捜査機関が証拠を集め、裁判所から有罪判決を得なければならない。

 だから捜査機関は、犯罪集団であると認め、犯罪の計画を把握し、その構成員が準備に着手したと断定するための証拠を集めることになる。

 「既遂=実行犯」を逮捕する場合、「爆破」「放火」などの事件で捜査が開始される。ところが、「共謀罪」は計画や準備を把握しなければならないから捜査のきっかけは外には表れない。したがって、捜査は「通信傍受」「盗聴」「盗撮」「潜入捜査・内通=スパイ行為」などが手段となる。こうした捜査手法があらゆる集団に継続して行われなければ、「一般の団体だったが犯罪集団に変わった」と判断できるはずもない。

 個人についても同様だ。「計画のための資金を準備した、物品を手配した」ことを当人以外が知るためには、預金の動きや実店舗・ネット販売での購入行動を把握することが必要となる。その行動が「計画実行準備」にあたるとするには、「犯罪集団」内外にわたる個人間の意思疎通の監視、つまり電話からメール、ツイッター、LINE(ライン)まですべてのSNSの傍受がまかりとおることになる。

 「共謀罪」創設は、国家によるすべての個人・団体の監視を可能とし、安倍政権の政策に都合の悪い者を「犯罪者」に仕立て上げる。

共謀罪法案抜粋

第六条の二 次の各号に掲げる罪に当たる行為で、テロリズム集団その他の組織的犯罪集団の団体の活動として、当該行為を実行するための組織により行われるものの遂行を二人以上で計画した者は、その計画をした者のいずれかによりその計画に基づき資金又は物品の手配、関係場所の下見その他の計画をした犯罪を実行するための準備行為が行われたときは、当該各号に定める刑に処する。ただし、実行に着手する前に自首した者は、その刑を減軽し、又は免除する。

(注)1行目「次の各号」は対象の罪277件。10行目「当該各号に定める刑」は「五年以下の懲役または禁錮」の刑罰

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