2017年04月14日 1473号

【森友で話題 忖度って何/自発的服従システムで意のままに/「暗黙の命令」下した安倍・維新】

 森友学園をめぐる一連の疑惑では「忖度(そんたく)」という言葉が乱れ飛んでいる。「忖度があった」「忖度などない」「良い忖度と悪い忖度がある」等々、わけがわからない。忖度された側の安倍首相に責任はないと強弁する者もいる。冗談ではない。人事によって官僚組織を意のままに支配しているのは誰なのか。安倍は「忖度させた」のである。

橋下・松井の詭弁

 「忖度」とはどういう意味か。辞書的に言うと「相手の気持ちを推しはかることの漢語的表現」のことである。メディアでは否定的な意味合いで使われることが多い。「権力者の顔色をうかがって側近が動く忖度政治はよろしくない」というように。

 森友学園の問題では、同学園の教育方針に賛同する安倍晋三首相夫妻の意向を大阪府や財務省が忖度し、学校認可や国有地の8億円値引き売却などで極右小学校の設立を手助けしたと言われている。これに対し、安倍首相は「忖度の働く余地は全くなかった」と反論する。

 一方、「忖度の何が悪い」と安倍首相を擁護する者もいる。日本維新の会の松井一郎代表(大阪府知事)は「政治家は国民の思いを忖度して政策をすすめていく」との持論を展開。「安倍首相は悪い忖度ではないと言うべき」と主張した(3/25党大会)。

 同じことを盟友の橋下徹(前大阪市長)も言っている。「トップの意向を忖度しない組織なんてあるんですか」「行政が政治状況を見て忖度するのはまさに民主主義でしょ」(3/20テレビ番組での発言)。首相や首長は民意の体現者であり、官僚が忖度するのは「民主主義の究極の姿」だと言うのである。

 詭弁を弄するのも大概にしてほしい。安倍官邸や維新府政は懲罰的人事や強権的な管理手法によって官僚組織を意のままに動かしている。命令や指示がなくてもトップの思惑どおりに動く自発的服従システムを作り上げたと言ってよい。この独裁装置のどこが民主主義なのか。

 そもそも、財務省も大阪府も真相究明に不可欠な資料を公開していない。たとえば、森友学園との交渉記録を「廃棄した」「作成していない」と言い張っている。隠ぺい工作を行っている側が「悪い忖度はなかった」などとよく言えたものだ。松井には「恥を知れ」と言いたい。

勘ぐらせる政治

 政治学者の中島岳志(たけし)は「安倍政治の本質は『勘ぐらせる政治』である」と指摘、NHK番組改変の事例を紹介している(3/24週刊金曜日)。

 2001年、日本軍「慰安婦」問題を取り上げたNHKの番組が改変される事件が起きた。放送直前に番組内容がまるで変わってしまったのである。後日、朝日新聞の取材により、政治家の介入があったことが発覚した。NHK幹部を呼びつけた一人が当時官房副長官だった安倍晋三だ。

 NHKの松尾武・放送総局長(当時)は、安倍の印象をこう述懐している。「先生はなかなか頭がいい。抽象的な言い方で人を攻めてきて、いやな奴だなあと思った要素があった。ストレートに言わない要素が一方であった。『勘ぐれ、お前』みたいな言い方をした部分もある」

 証言によれば、安倍は直接的に番組の改変を要求したわけではない。相手に勘ぐらせることによって、自分の意図に沿うように仕向けている。だから圧力や介入の決定的証拠はまず残らない。森友問題で安倍が「関与していない」と言い切れるのは、自分が築いた「勘ぐらせる政治」に自信があるからであろう。

 橋下・松井の維新コンビも「職員基本条例」などの強権的手法で職員を縛りあげ、自らへの絶対服従を強いている。「忖度された側に責任はない」なんて馬鹿げた話はない。役人が忖度するように仕向けたのは彼らなのだ。

共謀罪との共通点

 2012年2月26日、日本教育再生機構が主催する集会が大阪で行われ、そこに安倍が参加した。同機構は育鵬社の歴史歪曲教科書の採択運動を展開してきた団体で、安倍の政策ブレーンの八木秀次が理事長を務めている。この八木が安倍を招き、松井や馬場伸幸(現・日本維新の会幹事長)ら維新の幹部連中と引き合わせた。

 集会後の打ち上げに参加した維新側出席者は「私たちは安倍さんがやり残したことを大阪でやろうとしているんです」と発言。安倍も大阪府・市での「教育基本条例」制定の動きを大いに評価した。両者は意気投合し、安倍の首相再登板に向けた動きが加速していったという。

 こうした安倍・維新の蜜月関係を大阪府の関係者が知らぬはずがない。幼稚園児に教育勅語を唱和させる森友学園は安倍や維新が狙う教育のモデル校というべき存在であり、自民や維新の多くの議員が応援していた。昭恵夫人に至っては森友側の要求を秘書的立場の政府職員を使って財務省に伝え、新設予定の小学校の名誉校長に就任していた。

 そして、森友学園の小学校設立計画に通常ではありえない優遇措置が行われていった。国や大阪府の官僚が安倍・維新の「暗黙の命令」に従って動いたことは紛れもない事実である。直接の命令・指示の有無をもって責任問題を語るのはナンセンスの極みというほかない。

   *  *  *

 前述の中島岳志は「森友問題と共謀罪は、構造的に連動している」と指摘する。たしかに、共謀罪には権力に対する自発的服従を生む効果がある。誰もが官僚たちのように、安倍の意向を忖度して動く人工知能を搭載したロボットになる。そんな社会は絶対にご免である。     (M)



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