2017年04月14日 1473号

【どくしょ室/「奨学金」地獄/岩重佳治著 小学館新書 本体780円+税/生き血をすする「貧困ビジネス」】

 本書は、現在の奨学金制度が「貧困ビジネス」となっている現実を明らかにし、日本に住むすべての人に考えてほしいと呼びかける奨学金問題入門書である。

 第1章では、経済的に苦しむ学生の実態が紹介される。大学の授業料免除と第1種奨学金(無利子)を受けていた男子学生は、アルバイトで生活費を工面していたが、成績が落ちて授業料免除を受けれなくなり、第2種奨学金(有利子)を申し込まざるを得なくなる。彼は、奨学金返済のため自衛隊への入隊を決意する。

 第2章では、奨学金返済をめぐるトラブルを追う。「借りるときは奨学金、返済時は金融ローン」と表現されるように、奨学金返済の取り立ては厳しい。就職先の倒産や本人の病気、交通事故など返済困難な事情は誰にでも発生する。返済金滞納時の延滞金には10%(2014年以後は5%)の利子が付き、9か月延滞すれば裁判所から一括返済の督促。機構側は裁判になれば実情を無視した20年間の分割返済の和解案しか提示せず、支払い猶予や減免など救済制度は本人が申し出ない限り教えない。

 親が返済をしていると思っていた奨学金が10年以上も滞納していた事実を知った人は、滞納金を含む元金の倍以上の金額の返済を迫られた。弁護士に相談して10年以上前の金額の請求時効成立を初めて知らされたという。結局、返済困難となった人の多くが自己破産で出直すことを選択せざるを得なくなっている。

 第3章では、金融ローン化した奨学金制度の利用に警鐘を鳴らし、学生に慎重な利用を呼びかる高校の実践例や給付型奨学金を大学独自で創設している例が紹介されている。

 第4章以降では、現在の奨学金制度の問題点と改善の方向性を整理する。

 そもそも貸与型奨学金は「受益者負担」の考え方に基づき、大学を卒業すれば安定した収入を得られる職業に付けるという大前提のもとに制度設計されている。しかし、不安定雇用化が進み、若者の貧困が問題となっている現在、返済は貧困増大の原因とならざるを得ない。また、日本育英会から学生支援機構に名称変更するとともに民間資金が活用され、奨学金が金融商品として投資の対象となったことが、有利子奨学金を拡大させた。まさしく低所得層から利益を得ようとする「貧困ビジネス」化が進んだといえる。

 2017年から給付型奨学金が導入される。運動の成果で、歓迎すべき流れだ。しかし、政府の打ち出した給付型奨学金は対象が約2万人、給付額も3万円程度と極めて低額で、貸与型奨学金に頼らなければ進学できない現実を変えるものではない。給付型奨学金の充実、学費値下げ・無償化とともに、現在の奨学金制度で返済困難になっている人たちに対する救済の制度を充実させることが急務と本書は訴えている。 (N)
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