2017年04月28日 1475号

【未来への責任(223)/強制動員の真相究明を(上)】

 第10回強制動員真相究明全国研究集会とフィールドワークが3月25日から26日にかけて長野県松本市で開催され、全国から延べ約100人が参加した。紙面を借りてその様子や意義を伝えたい。

 集会は、国の重要文化財にも指定されている情緒あふれる旧制松本高校の講堂「あがたの森文化会館」で行われた。

 「強制連行・強制労働をどう伝えるか?」のメインテーマのもと基調講演は立命館大学客員教授の水野直樹さん。日本の朝鮮植民地支配の最大の特徴は「同化と差異化」にあることを指摘された。朝鮮人に対し植民地支配下では同じ皇国国民と言いながら、本籍を変えることはさせず、「創氏改名」も「創氏」によって日本式家制度を強制する一方で「改名」は、日本人との区別がつけられるよう日本人と同じような名前は認めないという差を設けて差別化を図った、と。

 長野県強制労働調査ネットワークの原英章さんは、その存在自体がほとんど知られていなかった「農耕勤務隊」(航空燃料の材料となるサツマイモやジャガイモなどを栽培する農作業に本州中部に約1万2500人を強制動員)の詳細な調査結果を報告。韓国から参加の日帝強制動員平和研究会の鄭惠瓊(チョンへギョン)さんは「ジェンダー」の視点から、「アジア太平洋戦争期朝鮮人女性労務動員現況」と題して実態を報告した。

 戦争体験の社会的共有が希薄な現在、いかに次世代に伝えていくのかという視点から報告したのは立命館大学の庵逧(あんざこ)由香さん。戦争体験者を全く知らない現代の学生も、K−POPなどの影響もあって韓国や日韓の歴史に関心を持つ学生が多くなってきている状況を踏まえ、強制連行を伝えるための様々なツール(書籍、記念碑、記念館、映像など)を共有しうまく活用していかなければならないと、興味深い問題提起をした。

 今回のもう一つのテーマは明治産業革命遺産のユネスコ登録問題だった。東京大学の外村大(とのむらまさる)さんは強制連行に関して、労働力の日本への移入により朝鮮では深刻な労働力不足が生じたことや、労働環境が悪いがゆえに、国家責任が生じる「徴用」の対象にできなかった炭鉱・鉱山などの労働力不足を補うため、不安定な「募集」「官斡旋」の形態で強制動員が行われたという植民地支配の「差別構造」を指摘した。

 紙上報告で、長崎在日朝鮮人の人権を守る会の柴田利明さんは、遺産の対象が1910年以前のものに限られるため、「軍艦島」はコンクリートで覆われた護岸の石垣と竪坑跡だけが遺産として登録され、「名所」として知られる廃墟群は保全の対象とされていない矛盾を指摘した。

 今回の集会では、松本市文書館の特別専門員を務める小松芳郎さんの「松本市における戦時下軍需工場の外国人実態報告調査報告書」の作成経過の報告や松本市・松本市教育委員会の後援、そして集会にも市長メッセージが届くなど、自治体として平和の課題に取り組む松本市の姿勢にも触れることができた。

(日本製鉄元徴用工裁判を支援する会 中田光信)

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