2017年04月28日 1475号

【ルポ 避難指示解除された飯舘村/「除染まだのところも…」と村長/帰還する高齢者さえ切り捨て】

 3月末をもって帰還困難区域を除くすべての地域で避難指示が解除された。

 4月12日、解除されたばかりの飯舘(いいたて)村を訪ねた。村の75%が山林で、平地の田んぼにはフレコンバッグの山が散在している。

 年間212億円の村予算から、「道の駅」など復興拠点エリア整備事業に10億円、1周400メートルの陸上グラウンドなどスポーツ公園整備に23億円、学校等再開整備事業に40億円と大規模建設工事が進められている。交流センター「ふれ愛館」や飯舘中学校、飯舘村商工会館など、人口規模からかけ離れた大きな新建築物が目を引く。「(補助金をとって)将来の対応もこの機会にしておかないと」と菅野典雄村長は言う。一方、商店は3つのコンビニが主流で、立派な村営「いいたてクリニック」も診療は週2回だけだ。

 飯舘村の人口は約6200人。村の意向調査(1月実施)では「戻りたい」が33・5%、「戻らない」が30・8%、その他は「判断がつかない」「無回答」だった。2011年4月に全住民に避難指示が出され、多くが福島市・川俣町・伊達(だて)市の仮設住宅に移った。福島市・川俣町に役場と学校を移して避難生活を続けた。12年3月、原子力損害賠償紛争審査会が避難区域を3区分に再編した際、賠償額に差をつけたため、村民に分断が生まれ、約3000人がADR(裁判外紛争解決手続き)申し立てを行っている。

住民懇談会ガラガラ

 この日は飯舘村の隣の伊達市で、村の主催による「飯舘村住民懇談会」が開かれた。菅野村長をはじめ、後藤収復興庁原子力災害現地対策副本部長、内閣府や環境省、農林水産省の役人ら30人以上が顔をそろえた。ところが、用意された200席はガラガラで、住民参加は14人。行政不信を示す象徴的な参加状況だった。

 質問で伊達市の仮設住宅に住む長谷川健一さんは、村の高齢化対策、山林除染についてただした。「130床の特別養護施設があるのに30床しか稼働していないのは介護者が足りないから。コンビニの従業員募集は時給1250円(村が500円補助)。介護のパート募集に800円では人が集まらない」「宅地から20メートルの個所で除染しても、線量は下がっていない」

 菅野村長は「村が超高齢化社会になることは事実。一方で若い人たちが(復興のためにと)農業で50人、商業で30人、ぜひ私がと言って手を挙げてくれている」と述べ、「(福祉関係は)お金を出せばいい、ではなく心ある人がやってくれることが大事」と問題をそらした。「宅地、農地等の除染は完了したと書いているが、まだのところもある」と開き直りも。

 農家の男性が「農業用ため池の除染はやるのか」と問うと、農水省は「村に個別に相談していただければ検討する」、福島県は「70か所200以上のため池の底質土をとってセシウムを分離するなど、時間も人もいない。まずは水路と河川の対策をしたい」と、営農の環境が全く整っていない実態が露呈した。

 風評被害について長谷川さんは「試験的にソバを作っていてキロあたり26ベクレル検出した。基準値以下といっても、ゼロの北海道の物と比較されたら、買わないだろう。これは実害だ。賠償は続けるべき」。これに対しては、「風評被害がどういうものか調査をしてこなかった。実態を把握して検討する」(農林水産省)とわけのわからない答弁だ。

行政不信が噴出

 事故直後から村内で環境・食材検査を続けている伊藤延由さんは放射能安全論を批判した。「人が集まらないのは放射能のせい。ため池が崩壊した時測ったら数万ベクレル出た。個別に対応とかではなくすぐに対策すべきこと。非破壊式の食品検査機を9台導入するというが、限界値50ベクレルなので数ベクレルは出ていることが知られれば、やはり実害は出る」

 懇談会終了後、伊藤さんは「これじゃあ当局が目論(もくろ)んだガス抜きにもならんでしょ」。長谷川さんは「もう何を言っても(行政は)わからない、という不信感がこの参加者数だ」と怒った。

 懇談会では今村復興大臣の「自己責任」発言に対する批判の声も出た。後藤副本部長は「言葉足らずだと思う。国が避難指示を出した以上は、見なければ。みなさんが好き好んで出たわけではないから」と説明。終了後「今村発言は自主避難者になされたもの。後藤さんも自主避難者は違うと言いたいのか」と聞くと、「この場には区域内避難者しかいないからそう答えた。私は区域内も区域外も避難の事実については同じだと思っている」と述べた。

 村は村外の仮設幼稚園・小中校を閉鎖して若い世代を帰還させようと画策したが、反対に遭って来年に延期した。20万円の引っ越し費用支給などの姑息な手法も功を奏していない。    (Y)

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