2017年05月05・12日 1476号

【共謀罪 世論調査のカラクリ/質問の仕方で結果は変わる/名称詐欺で導く「賛成」多数】

 政府が今国会での成立を狙う「共謀罪」法案を世の人びとはどう思っているのか。メディア各社の世論調査をみると、誤差の範囲をはるかに超える開きが生じている。

 読売新聞の調査(4/14〜4/16実施)では、「賛成」58%に対し「反対」25%。産経新聞とFNNの調査(4/15〜4/16実施)は「賛成」57・2%、「反対」32・9%であった。ほぼ同じ数値といえる。ところが朝日新聞の調査(4/15〜4/16実施)をみると、「賛成」35%、「反対」33%と賛否が拮抗しているのである。

 この違いは質問文にあると考えられる。「読売」と「産経」は政府が使用する「テロ等準備罪」という呼称を用いて質問している。正確に言うと、「読売」は「テロ等」の等も省いている。質問文はこうだ。「これまで検討されていた『共謀罪』の要件を厳しくし、テロ組織や組織的な犯罪集団が、殺人などの重大犯罪を計画・準備した段階で罪に問えるようにする『テロ準備罪法案』に、賛成ですか、反対ですか」

 一方、「朝日」の質問文は「テロ等準備罪」を使っていない。同じ「朝日」でも「テロ等準備罪」法案への賛否として尋ねた2月の世論調査はどうだったか。結果は「賛成」44%、「反対」25%。腹立たしい話だが、安倍政権によるネーミング詐欺はかなりの効果があるということだ。

危険性を指摘すると

 では、「読売」と逆のパターン、すなわち法案の危険性を質問文で指摘した場合はどうだろう。日本テレビが2月に実施した世論調査は次のように聞いていた。「政府は、組織的犯罪集団が犯罪を実行しなくても準備段階で罪に問える『共謀罪』の趣旨を含んだ、『テロ等準備罪』を設ける法案を今の国会に提出する方針です。犯罪の計画段階で、処罰の対象となることに対して、人権侵害や、捜査機関による乱用の恐れがあるとの指摘もあります。あなたは、この法案に賛成ですか、反対ですか?」

 結果は「賛成」33・9%に対し「反対」37%と、賛否が逆転した。同じ傾向は3月11日〜12日に行われた毎日新聞の世論調査にも現れている。「一般の人も捜査対象になるとの指摘があります」と伝えた上で質問したところ、「賛成」30%を「反対」41%が上回った。誰もが人権を侵害されるおそれを知らせると、法案に対する世論の反応はがらりと変わるのである。

 日テレや毎日新聞の世論調査をネット右翼は「誘導質問だ」と叩いている。はたしてそうだろうか。安倍政権は一般市民には関係ないとのイメージをふりまくために、法案の目的ではない「テロ対策」を前面に押し出した名称に言い換えている。そうした印象操作に加担する質問文で法案の賛否を聞くことのほうが悪質な世論誘導というものだ。

   *  *  *

 昔話を一つ。安倍首相の祖父である岸信介内閣が警察権限の拡大を狙い警察官職務執行法の改定を企んだ際のことである。労働者・市民を中心に広範な反対運動が起こり(1953年10月〜11月)、ついに改定を断念させたのだが、反対世論を喚起した有名なスローガンが「デートもできない警職法」だった。

 本紙前号8面記事の見出し「LINEもできない共謀罪」はそのパクリである。共謀罪を阻止するために必要なのは、物言えぬ社会を作り出し市民的自由を脅かす弾圧法の正体を、誰もが共感できる言葉で伝えることだ。本紙も引き続き努力したい。     (O)

ホームページに戻る
Copyright Weekly MDS