2017年05月05・12日 1476号

【政府に抵抗するすべての市民を敵視/共謀罪は弾圧法案】

 安倍首相は共謀罪創設の必要性を(1)国際組織犯罪防止条約の締結に必要(2)法整備できなければ東京オリンピック・パラリンピックが開催できない、と「テロ対策」が目的であるかのように宣伝する。だが(1)(2)とも共謀罪がなくとも支障がないことは明らかになっている。(1)については、日本政府自身が条約の起草段階で「テロリズムは対象とすべきではない」と主張していたことまで国会で暴かれた。

対象は「一般人」

 政府は「一般の人が対象になることはない」と繰り返し答弁してきた。3月22日の答弁で金田法相は「テロリズム集団、暴力団、薬物密売組織に限られ、一般の会社や市民団体や労働組合などの正当な活動を行っている団体は適用対象とはならない」とする。

 本当に「一般の人」と「組織的犯罪集団」の線引きをするのなら、暴力団は暴力団対策法の規定を引用し、テロ組織、薬物密売組織は法案で定義しなければならない。だが、法案に書かれているのは「テロリズム集団その他の組織的犯罪集団の団体」のみだ。

 重要なのは安倍政権が「一般の人」への対象拡大を狙っていることだ。「一般の人が対象にならないということはないが、ボリュームはたいへん限られている」(4/21盛山法務副大臣)「テロリズム集団ではなくとも要件を満たせば組織的犯罪集団と認められる」(4/19林刑事局長)。要は政府が言う「一般の人」を対象とするための法案なのだ。

沖縄がターゲット

 一般人を監視・処罰対象とするのは、共謀罪創設の目的が「テロ対策」などではなく安倍の戦争政策遂行にあるからだ。

 当面のターゲットは沖縄反基地運動だ。

 辺野古・高江での強固な新基地建設反対運動の前に、安倍政権はむき出しの暴力による国家権力の行使に頼らざるを得なかった。「島嶼(とうしょ)防衛」を口実に南西諸島の軍事化を進め戦争法の実体化を急ぐ安倍は、沖縄本島以外の離島地域でも自衛隊配備反対運動に直面している。国民の目に見える暴力的弾圧以前に反対運動を抑え込みたいというのが本音だ。安倍は、相談すること≠罪とし準備着手≠ナ罰することができる共謀罪創設を必要としている。

 辺野古・高江の建設阻止運動リーダー、山城博治さん他3人不当逮捕の理由は「名護市辺野古の米軍キャンプシュワブゲート前で、コンクリート製ブロックを積み上げて工事車両の進入を阻み、威力をもって沖縄防衛局の業務を妨害した」というもの。

 威力業務妨害罪に「未遂罪」はない。だから条文上は、現実に建設車両が通行できないほどブロックが積み上げられなければ逮捕できない。

 だが組織的業務妨害共謀罪では、ブロックを1個置いた時点で芋づる式に逮捕できる。

 ブロックをゲート前に運搬する、運搬するための自動車を運転する、ブロックを購入したり自宅から運び出すといった行為も準備行為にあたる。共謀罪では、この時点で関係者の一斉検挙が可能となる。

 警察は令状をとり、自動車運転者、ブロック購入者を逮捕。スマホやパソコンを証拠物件として押収し、通話・通信記録から関係者を特定。片っ端から共謀罪で捜査・押収・逮捕を繰り返す。

 実際には、改悪盗聴法や警察の不法な調査手法の拡大で反基地・市民運動関係者を事前にマークし、組織的業務妨害共謀罪で同時多発的に逮捕することを狙う。その範囲は、現地で運動を担っている中心人物のみならず、県内外から支援に駆けつけた人にまで広がる。沖縄から遠く離れた地域に住み、カンパを送っただけの人も共謀罪対象犯罪の資金提供者として捜査・逮捕対象とされる危険性もある。捜査当局の判断次第で対象者は全国に広がる。白昼堂々の暴力は必要ないから、隠密に弾圧できる。

 山城さんのケースでは700万円の保釈金を積み保釈されたのは逮捕から5か月後だ。もし同様の長期勾留があれば、サラリーマンなら職を失い、農業者なら田畑は荒れ放題、自営業者も廃業を免れない。しかも保釈のためだけに大金を準備しなければならない。市民運動団体に「犯罪者集団」とのレッテルを張り、孤立化・解体をもくろむものだ。

あらゆる運動を監視

 監視・弾圧は沖縄のみならず全国の様々な市民運動に広がっていく。国会前の総がかり行動に示されるように、安倍の戦争・貧困・原発推進の新自由主義政策に多くの市民が立ちはだかっている。共謀罪の対象犯罪が277に上り、テロリズムと全く関係がないものがほとんどであるのは、政策に反対する国民すべてを監視下に置き、いつでも誰でも弾圧可能とするためだ。

 「土人」差別発言の機動隊員擁護デモを呼び掛けた福岡県行橋市の市議は「テロ等の準備罪とかに関しても日本は多分規制の方向に入っていくんですよ。あんな基地の反対活動を他国の基地の前でできる、これが容認されている国家なんて世界広しといえども多分日本しかない。厳しく規制されていく方向にならざるを得ない」と述べる。何の根拠もない無責任発言だが、市民的自由を国家の政策に従属させる発想は共謀罪創設の狙いをよく表している。

 沖縄・高江の反基地運動を敵視した松井大阪府知事率いる日本維新の会は4月21日、共謀罪の「修正案」を決定した。取り調べの可視化、テロの実行に関する犯罪を通信傍受法の対象に追加などを対案として提出する(4/22産経)。共謀罪創設には賛成なのだ。

 戦争・改憲で歩調をそろえる自公・維新の共謀罪法案は廃案以外にない。

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