2017年05月05・12日 1476号

【EUでもトランプ現象?/グローバル資本に99%が勝利するには…/「移民」ではなく元凶は新自由主義政策】

 トランプ米大統領が誕生して3か月。排外主義むき出しの選挙公約は実現できず、行き詰まりを見せている。しかし、オランダ総選挙やフランス大統領選挙では極右勢力が支持を拡大している。グローバル資本主義は1%の富者と99%の民衆の闘いだ。極右政治家が支持される「トランプ現象」をどう見ればよいのか。

 

Q 欧州でも極右政党が支持を拡大しています。理由は難民・移民問題でしょうか?

 オランダ下院選挙(3/15)では極右政党・自由党が第2党になりました。フランス大統領選挙(第1回4/23)でも、極右政党・国民戦線ルペン候補が5分の1を超える支持を集め、決選投票に進出します。6月に英国下院・フランス国民議会、9月にはドイツ連邦議会の選挙が行われます。いずれも極右政党の増大が予想されています。

 極右政党に共通する主張は「反移民、自国第一」。紛争や貧困から逃れ、中東やアフリカから欧州をめざす難民・移民の数は数百万人とも。「移民に職を奪われる」「難民に税金を使うな」という不安・不満≠ノ、極右政党のスローガンは入りやすい。

 しかし、雇用不安や貧困は移民のせいではありません。新自由主義的な緊縮財政政策の結果です。各国政府は住宅、医療、教育や社会保障を削減し、労働者は不安定雇用、低賃金へと追いやられています。移民はさらに安い労働力として利用されてきたのです。移民を排斥しても、貧困格差は解決しません。

 難民・移民問題にどう取り組むべきか。本紙ウェブサイトに「グローバルな移動の自由と社会変革のプロジェクト」(独マールブルク大学助教ファビアン・ゲオルギ)と題する論文が訳出されています。「難民危機は世界資本主義の諸矛盾の凝縮である」との重要な指摘がされています。すべての人権を守る上でも、経済民主化の政策上も移民の移動を保障することです。そのためにも新自由主義的緊縮政策の根本的転換を図らなければなりません。

 極右政党の主張は「自分だけは助かる」と民衆を分断しようとするものです。グローバル資本主義の下で同じ搾取される側にいる労働者が、移民・難民を排除しても、状況は悪化するばかり、自分だけ助かるはずはありません。

Q 自由貿易をよしとするグローバル資本にとって「自国第一主義」政策は、不都合なのではないですか?

 「アメリカ、ファースト」と連呼し「支持」を得たトランプ政権。その実態を見てみましょう。トランプは「国境に壁をつくる」とメキシコを目の敵にしました。「NAFTA(北米自由貿易協定)のせいで、米国の製造業が打撃を受けた。白人労働者の職を奪ったのはメキシコ移民」と言いがかりをつけました。

 NAFTAの被害者は米国ではありません。それは、メキシコと米国の労働者です。

 94年(クリントン政権)に発効したNAFTAでメキシコの主食であるトウモロコシが米国から大量に輸入されたため、価格が暴落し、南部の農村は大打撃。食えなくなった農民は米国境近い農園で、米国大手スーパー(ウォルマートなど)への農産物栽培に従事し、一時しのぎ。交通費をため、国境を越えるわけです。米国内でも安い労働力として組み込まれています。米農務省の報告では、穀物労働者の半数が「不法移民」でその7割がメキシコ出身(赤木昭夫「世界」臨時増刊号)。

 「自国第一主義」とは、国境を遮断することでも、保護貿易に徹することでもありません。グローバル資本主義の最も露骨な収奪「弱肉強食」を言い換えたものにすぎないのです。国家間に利害があるのではなく、あくまで1%の富者が99%の民衆を搾取する構図なのです。

 トランプは対中貿易赤字を問題視します。しかし、アップル社のiPhoneは中国製。売れれば売れるほど、対中貿易赤字は増えます。米国内で製造しようとすれば、中国と同程度まで賃金や労働条件を引き下げることが不可欠です。「自国第一主義」を期待する白人労働者は、メキシコ人なみに5分の1の賃金で働くか、威勢のいいスローガンだけで我慢するかどちらかの選択しかありません。

Q トランプ政権は、従来のエリート政治家への批判から支持されたと言われます。違いがあるのでしょうか?

 ジャーナリストで活動家のナオミ・クラインは、トランプへの政権交代を、長年二大政党の政治家を介して確保してきた権益を直接資本家が自分で確保するための「企業買収だ」と指摘しています(「世界」臨時増刊号)。

 財務長官スティーブ・ムニューチンはヘッジ・ファンド投資家で、「住宅差押え機関」を使い、何万人もの人びとから住宅を奪いとった人物です。国務長官レックス・ティラーソンはエクソン・モービルの前会長兼最高経営責任者(CEO)で、気候変動を否定する研究に資金提供していました。「国の事業を少しづつ民営化した末に、政府そのものを手に入れた」わけです。

 ナオミ・クラインはトランプ政権を「一見強力、実はおびえのあらわれ」と評します。2011年の反ウォール街―オキュパイ(占拠)運動、15年には最低賃金15ドルの闘いが広がり、16年パリ協定は環境保護運動の足掛かりになりました。グローバル資本の思い通りにはいかない状況が生まれています。

 トランプ政権は凍結されたダコタ・アクセス・パイプライン建設を再開させましたが、パイプラインに投資している銀行からの資産撤退運動が広がっています。シアトル市議会は、同事業に4億5千万ドルの融資をしたウェルズ・ファーゴ銀行から、市の資産30億ドル引き上げを市議会満場一致で決定。全米に広がる気運があるといいます(宮前ゆかり「世界」臨時増刊号)。

 反貧困を掲げ米大統領予備選で大健闘したバーニー・サンダースは「草の根の闘いを担う何百万も人びとがいます。絶望を感じる必要はありません」と語っています。反緊縮、反新自由主義政策を掲げ、99%の大同団結をはかること。勝利への唯一の道でしょう。
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