2017年05月05・12日 1476号

【ミリタリー/核兵器禁止条約の示す道/軍事でなく、平和的解決を】

 市民の命を一切顧みない米トランプ政権と朝鮮金正恩(キムジョンウン)政権。そのチキンレース≠ワがいの「兵器誇示」合戦が北東アジアの危機をかつてなく高めている。ここでの軍事衝突は、朝鮮半島だけでない未曾有(みぞう)の大惨事を引き起こす。どんな「小規模」な軍事攻撃も絶対させてはならない。

 「軍事ではなく、平和的解決を」の声を全世界で一層高めることが急務だ。この声は確固として存在する。国連をはじめ国際的な場で戦争勢力を追いつめる圧倒的多数勢力として姿を現し、勢いを増している。

 核兵器禁止条約をめぐる国連などでの動きがそれだ。

 2016年10月27日、ニューヨークの国連総会第1委員会で、核兵器禁止条約の交渉を2017年3月に開始する決議が採択された。採決結果は、賛成123、反対38、棄権16。米国を先頭にした核大国の強い圧力にもかかわらず、国連加盟国の3分の2近くの国々が賛成票を投じた。日本政府がこれまでの「棄権」から「反対」に転じるなど執拗な妨害が繰り広げられたが、それを乗り越えたこの決議に一切揺るぎはなかった。

 決議どおり今年3月27日から31日まで制定交渉の会議が現実に開催された。この第1回交渉会議には、非核保有国を中心に100か国以上が参加し、参加国の多くが条約の成立を希望。日本政府は、いったん「条約反対の立場で参加」と表明しながら、一転、軍縮会議代表部大使が冒頭演説で今後の会議への不参加を表明し、「情けない国」となった。だが、ホワイト議長(コスタリカ)は会議全体を「建設的で効果的だった」と総括し、第2回会議(6月15日〜7月7日)の終わりまでに採択に持ち込む意向を表明している。

 核兵器禁止条約は、理念だけを謳(うた)ったこれまでの「核兵器廃絶決議」とは異なり、核兵器を国際法によって全面的に禁止する新たな世界のルールである。また、現在、世界で核を規制するルールとしてある核不拡散条約(NPT)や包括的核実験禁止条約(CTBT)があくまで部分的な規制であるのに対し、核兵器禁止条約は核兵器の使用、製造、保有、貯蔵、実験などを幅広く禁じる全面的な禁止条約である。

 1996年、生物兵器禁止条約や化学兵器禁止条約と同様に、「核兵器を禁止し廃絶する条約が必要だ」と最初に提起したのは国際司法裁判所(ICJ)。以降約20年、NGOなど市民社会と非核保有国の共同の努力がついに実を結ぼうとしている。 広島、長崎への原爆投下から71年。核兵器を国際法によって全面的に廃止するプロセスがついに開始された。「完璧ではないが大きな一歩。いよいよ扉が開いた」(広島で被爆した藤森俊希さん)

 一方で、「核兵器保有国が参加しない交渉や条約制定には意味がない」「非現実的だ」とのキャンペーンで核兵器禁止条約制定への歴史的意義をかき消そうと躍起になる動きもある。

 これは、歴史を見ないデマだ。対人地雷禁止条約やクラスター爆弾禁止条約も成立過程に保有大国の参加はなかった。だが、条約が成立すると、国際世論を喚起し、保有国を巻き込んでいった経験がある。

 核保有国の参加がなくても、核兵器禁止条約の制定と効力化は可能だ。核兵器保有国と核の傘下にある「同盟国」は今や一握りの少数派である。現在の戦争の危機を回避し、核保有の口実を奪うためにも、核兵器禁止条約の早期制定が必要だ。この歴史的事実を広く市民社会に知らせ、「軍事ではない平和解決」の道を大胆に訴えていこう。

 豆多 敏紀
 平和と生活をむすぶ会
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