2017年05月05・12日 1476号

【検証 国鉄分割民営化30年(上) JRの真実―犠牲のシステム 労働法制解体と地方切り捨て】

 国鉄を民営7社に分割する1987年4月1日の国鉄「改革」から30年を迎えた。国は、本州3社が莫大な利益を上げていることを理由に、相変わらず「民営化成功神話」を振りまいている。30年を経たJRグループの現状はどうなっているのか検証する。

徹底した労働者いじめ

 「国労が崩壊すれば総評も崩壊することを明確に意識してやったわけです」。1996年12月、分割民営化を実行した中曽根康弘元首相が雑誌の取材に対しこう答えている。

 特定の労働組合を狙い撃ちした解雇は昔も今もあらゆる労働法令を踏みにじる不当労働行為だ。にもかかわらず、中曽根は違法行為という認識もなく、白昼公然と首切りを自慢している。分割民営化に反対する国労(国鉄労働組合)の労働者らを「人材活用センター」と称する労働者いじめ組織に送り込む。草むしりなど鉄道と無関係な仕事をさせ、労働者から鉄道員としての誇りを奪う。いったん全員を解雇し、会社への「忠誠」を誓った者だけを選別して新会社に採用する――国鉄分割民営化は最初から国家的不当労働行為のオンパレードだった。

 JR本州3社は労働者を減らしすぎ、発足当初から定員割れで発足。解雇し国鉄清算事業団に送ったはずの国労組合員らを採用せざるを得なかったのは皮肉というほかない。

 この間自殺に追い込まれた国鉄労働者は少なく見積もっても100人を超える。物言う労働組合の解体、そして国家が公然と行った「偽装倒産解雇方式」はその後の社会保険庁、JAL(日本航空)の不当解雇でも繰り返された。日本の全労働者を「賃金定額制使い放題」のどん底に追い込む新自由主義「構造改革」のきっかけとなった。

すさまじい会社間格差

 民営化初年度(1987年度)決算で、JR7社の営業収入全体に占めるJR北海道の割合はわずかに2・5%。JR北海道の営業収入(919億円)は東京駅の収入(約1000億円)より少なく、JR東日本1社だけでJR7社の営業収入の43・1%を占めていた。

 この経営格差は、30年を経てさらに拡大している。JR東海の鉄道事業営業収益は5556億円であるのに対し、JR北海道はマイナス483億円。3島会社とJR貨物を合わせた4社の営業損失は741億円だが、本州3社で最も収益構造が脆弱なJR西日本でさえ1242億円と4社合計の営業損失を大幅に上回る営業収益を上げている。これは、3島+貨物の全体をJR西日本だけで救済でき、お釣りが来ることを示している。30年で強い会社はより強く、弱い会社はより弱くなった。



 この凄まじい格差の象徴がJR北海道だ。2016年11月、島田修社長が記者会見し、全路線の営業`の半分に当たる1200`bが「(同社の)単独では維持できない」と発表した。分割民営化に伴って全営業`の3分の1が廃止となった北海道で、今また残った路線の半分が切り捨てられようとしている。

 北海道では、存続している路線でも駅無人化、減便などの徹底的な合理化が進む。JRの減便で、沿線の高校では部活動はもちろん授業がまともに成立しないケースも出ている。病気の人や高齢者が通院さえあきらめざるを得ない深刻な事態も各所で起きている。廃線が提案された路線の沿線では「JRがなくなったら北海道から出て行かざるを得ない」という住民もいる。地域にとって最後の公共交通であるJRの廃線は、地域社会を崩壊に追い込むものであり、認めることはできない。

北海道に次ぎ四国でも

 JR四国でも、会社側が路線別の収支を公表する構えを見せている。北海道に続きローカル線廃止が問題になるのは確実だ。

 2月8日の衆院予算委では、麻生太郎副総理兼財務相が「7分割して黒字になるか。なるのは(本州の)3つと当時からみんな言っていた。根本に手をつけずに解決するのは無理」と答弁するなど、自民党内からさえ分割民営化の誤りを認める発言が出ている。だが政府与党は分割民営化は成功との立場を崩さず、具体的な見直しには言及しない。環境破壊をもたらすだけのリニア新幹線に投入する2兆円の予算があるなら、JRローカル線の救済と分割民営化の見直しにこそ配分すべきだ。

 国民の公共交通であった国鉄を解体し、新自由主義を社会の隅々にまで浸透させ、労働者、乗客・利用者、地方にすべての犠牲を押しつけ、利益はJR株主・経営者と財界が総取りしてきた「犠牲のシステム」。これこそ30年を通じて見えてきたJRの真実だ。

  (続く)
ホームページに戻る
Copyright Weekly MDS