2017年05月05・12日 1476号

【奨学金問題対策全国会議設立4周年/富裕層優遇やめ若者の権利保障を/背景に非正規増と雇用劣化】

 政府は今年度、給付型奨学金の創設や貸与型奨学金の無利子化、「所得連動返還」型奨学金制度など、一定の改革を打ち出した。だが、多額の借金を背負ってスタートラインに着く若者の深刻な現状を改善するには程遠い。

 奨学金問題対策全国会議は4月22日都内で、設立4周年集会を開き、設立4年で給付型奨学金を限定的とはいえ実現した成果の上にたって、若者の貧困を解決するに足る制度の拡充・改善に向けた方向性を探った。

 近著にそれぞれ『奨学金が日本を滅ぼす』(朝日新書)、『「奨学金」地獄』(小学館新書)がある大内裕和中京大教授(全国会議共同代表)と岩重佳治弁護士(同事務局長)が出版記念対談。岩重さんが「奨学金返済に困っている人の状況は悲惨。疲れきって私の事務所に相談に来る。話をするのに苦労する人も多い」と切り出せば、大内さんは「奨学金について知っている人は増えたが、事の重大さ、深刻さにまだ十分認識が至っていない」と応じる。

問題は「家族主義」

 大内さんは続けた。「大学の授業料は上がっている。高卒の仕事はなくなっている。親が年功賃金でなくなっている。こうした社会の基本的な変化が分からないと、今の学生の状況は見えてこない。それは同時に、日本の社会運動が学費の問題や非正規の問題に本格的に取り組んでこなかったことを示す。社会運動になぜ若い人の参加が少ないのか。奨学金やブラックバイトの問題に気がつかないようでは社会運動に未来はない」

 岩重さんが引き取る。「奨学金を返さなければということで、結婚も考えられない。まして子どもを育てるのはお金がかかる。延滞金を払っても元金は減らない。一生借金漬け。子どもが大学へ行く、結婚する時期にまでまだ返している。こういう現実がようやく理解されてきたが、ちょっと遅すぎた」

 大内さんが強調するのは、教育費や住宅費が給与に依存している問題。それが発見されにくい原因の一つに、教育費の“家族主義”があるという。「家族で何とかしようとする。家族の中で完結してしまっている。大声でこれは社会問題だと言わなければ前に進まない。家族主義を突破するためには教育と社会保障の充実が不可欠だ」

運動で学生に変化

 岩重さんは運動の中で生まれた変化を紹介した。「私が言ってもいいんだと元気になる人も出てきている。関西学生アルバイトユニオンは『耐える力を変える力に』という標語を作った。そんなに頑張って耐える力があるのならちょっとでいいから変えようよというメッセージ」。大内さんは「中間層の解体と貧困層の増大を両方止めるような政策に転換すること。その点で奨学金問題はとてもいいヒントになる」とまとめた。

 当事者の発言をはさんで、生活困窮者の支援に長年携わってきた稲葉剛さん(一般社団法人つくろいファンド代表理事)が基調講演。若者の生活困窮には「貧困の世代間連鎖」と「ブラック企業問題の影響」という2つのパターンがある、とした上で、若者の貧困を解決するための施策として「住宅政策の転換、空き家を活用した準公営住宅や家賃補助など若者への住宅支援の実施」「給付型奨学金の充実、学費の値下げ、最低賃金の大幅アップ、ブラック企業への規制強化」を挙げた。

 閉会あいさつは、全国会議幹事の伴幸生さん(首都圏なかまユニオン)。「給付型を拡充する上での壁になるのが財務省を中心とした“財源”論。どこかを削ってこちらへではなく、法人税を元の税率に戻すだけで数兆円の予算が作れる。租税負担率の下がる年収1億円超の人から税金をきちんととれば教育無償化の予算は確保できる」と今後の闘いのポイントを指摘した。



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