2017年05月05・12日 1476号

【ルポ 避難指示解除の飯舘村/住民支援より大規模建物優先の「復興」/住民に冷たい帰還行政】

 福島県内の避難指示は、帰還困難区域を除いてすべて解除された。面積ではこれまでの避難区域の約68%が居住「可能」となり、解除対象人口は約3万1900人に上る。原発事故後、国の指示で避難対象となったのは11市町村の計約8万1000人。これまでに田村市都路(みやこじ)、川内村東部、楢葉町、葛尾村、南相馬市小高区などが解除された。新たに飯舘(いいたて)村など4町村が加わり、解除対象は当初人口との比較でも約7割となる。


コミュニティ破壊

 4月12日、飯舘村で放射能の影響を調査し続けている伊藤延由さんを訪ねた。南相馬市と山を隔てて接する野手神(のてがみ)地区で農業研究所「いいたてふぁーむ」の管理人を務める。新潟鉄工を退職後2010年にやって来て水田、畑を耕しメドを立てた矢先に事故にあった。6月になって福島市内に避難したが「3月15日に村のモニタリングポストが、44μSv/時示したことを村長らは隠していた。事故前の1000倍だ」と怒る。

 3月15日はプルーム(放射能雲)が飯舘村を襲った日だ。ちょうど雨が降り、夜から雪に変わって16日には積雪10cm。12日には相馬・双葉地域から約1200人が村に避難していて、村民とともに避けられたはずの被曝を強いられた。その人びとも17日頃から第2次避難を始めた。村は19日から「自主避難」を開始。「21日には村の簡易水道からヨウ素が検出され、飲料水が配られた。965ベクレル/kgのヨウ素が確認されている。その同じ日に、山下俊一は福島市内で『安全だ』と講演していたんですよ」。国が計画的避難区域に指定したのは、それから1か月後の4月22日だった。

 伊藤さんは、避難指示の遅れが被ばくだけでなくコミュニティ破壊にも影響したと語る。「行政区単位(村には20行政区ある)の避難ができなかったため、仮設・借り上げ住宅にバラバラで入居した。以前のコミュニティは破壊されたが、6年も経てば新たなコミュ二ティも生まれる」。帰還が始まればそのコミュニティは破壊される。帰還率は上がらないと見ている。

「行政はウソばかり」

 村は当初、目標は空間線量率年間1_Svだが当面は5_Svまで除染するとしてきた。それが困難とみるや環境省は「福島市内での住民懇談会(2012年8月7日)で年間20_Sv以下の被害は、タバコや仮設住まいのストレスよりも低いと宣言した。彼らに科学的な基準などない」。

 村が村内の農地・宅地各々20か所で定点観測した数値の単純平均は11年に地表1mで平均5・30μSv/時だったものが16年には0・50μSv/時へと落ちている(地表1cmでは0・93μSv/時)。これでも累積線量計で実測すると16年は1日10・1μSv(村内の屋外に5時間、屋内・移動に17時間、村外に2時間)。15年の新潟市内1日1・7μSv(屋外4時間、屋内20時間)と比較してみてもかなり高い。この環境で過ごすと、年間3〜4mSvの被ばくとなる。ちなみに今年2月時点の「いいたてふぁーむ」の浮遊チリ測定では409μベクレル/m3を記録した(新宿代々木市民測定所検査)。南相馬市で同68μベクレル/m3、新宿・原子力資料情報室で同12μベクレル/m3と比較すれば、いかに高いかがわかり、内部被曝が懸念される。

 「福島が年間20mSvで帰還されたら、今後の基準になってしまう。これはみなさんの問題ではないのか」と伊藤さんは話す。なぜ被ばくしてもここに戻るのか。「行政がウソばかり言っているので、誰かが事実を言わなければならない。食材の4割を得ていた自然の恵みの復活が村民の生活の復活ではないのか」と熱く語った。

「村の食材は使えない」

 帰還した食堂経営者の年配夫婦の話を聞いた。5年かかって店を軌道に乗せたころ原発事故は起きた。「店を再開してもおそらく採算は取れない」。それでも帰還したのは、老後をふるさとで過ごしたいとの夫の願いと「お店をみなさんが集える場として使ってもらえれば」との思いからだ。「でも若いもんは帰らないからね」。食材ひとつとっても、となりの南相馬市からの週1回の配達に頼る。「以前は村の直売店に行って十分足りた。野菜は大丈夫になったと言われても、村の物は使えない」。手探りの状態だ。

 帰ったものの、病院と介護施設が十分に機能していないことは不安だ。「あんなのつくってどうするつもりかね」。村が、数十億円を使って大規模建物建設に力を注いでいることへの疑問だ。また、新築の復興住宅に入るには初期費用などで50万円はかかるという。「年金生活者は50万円払って、毎月家賃払うのは無理だね。入りたくても入れない人の声をよく聞く。(建物に使う)お金を回して無料にすればいいのに」。飯舘村は帰還する高齢者にも冷たい。「避難指示を解除したからといって営業補填、賠償金を打ち切られたら困る」。赤字覚悟でお店を開こうと帰還した経営者にも冷たい。 (Y)

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