2017年05月26日 1478号

【フランス、韓国大統領選 民意は排外主義と戦争を拒否 怒れる若者の叫びが変革の足がかり 新自由主義政策を清算せよ】

 排外主義が勝利するのか。軍事緊張は高まるのか―フランス、韓国の大統領選挙が注目された。現状を変革できない既存政治に対する怒りの矛先がどこに向くのか。結果は、いずれも「力ずく」政策にノーだ。排外主義と戦争を拒否する民意が示された意義は大きい。だが1%の富者が99%の民衆を上回る富を手にする社会構造の変革は明確ではない―99%の民衆の怒りを一つに、新自由主義政策を転換する闘いこそ必要だ。

多数の無効票・棄権票

 フランス大統領選は5月7日の決選投票で、前経済大臣エマニュエル・マクロン候補が国民戦線党首マリーヌ・ルペン候補に大差で勝った。「フランス第一主義」を掲げ、「反移民」や軍事費拡大などを主張する極右政党の大統領誕生は阻止された。イギリス、ドイツの地方選挙での極右勢力の後退と合わせ、米大統領トランプに連なる最も危険な排外主義の勝利を許さなかったのは、重要な意味を持つ。

 だが、この結果を手放しで歓迎することはできない。新大統領マクロンの政策は、新自由主義をさらに推し進めるものだからだ。公務員12万人の削減、公的保険制度見直しで600億ユーロの歳出削減、法人税33・3%から25%への引き下げ。これがマクロンの公約だ。いわば「ペストとコレラの選択」。人びとは「ルペンが勝つ危険がありそうな場合、マクロンに」と苦渋の選択をした。決選投票は1回目に比べ投票率が増えるのが通例だが、約150万票減った。白票・無効票・棄権票が有権者の34%にのぼるのは、フランスでは極めてまれだ。

 新自由主義に反対する票はどう表れたか。1回目の投票で、緊縮政策の転換、1千億ユーロの景気刺激プログラム、解雇制限、経営者の報酬規制、最低賃金15%引き上げなどを公約に掲げた左翼党ジャン・リュック・メランション候補が、終盤に至って急速に支持を拡大し、20%近い支持を得た。18歳から24歳の年齢層では30%でトップ。25ー34歳の層でも24%のルペンと並ぶ2位だった。35-59歳の層ではマクロンと互角だった。

 ルペンの支持層には未熟練労働者や建設作業員、失業者が含まれていると言われる。ルペン自身、公共サービスの擁護、定年年齢の引き下げ(60歳に戻す)など左派の主張をつまみ食いし「民衆の名のもとに」のスローガンを掲げ、低賃金労働者の取り込みを図った。マクロンの新自由主義政策を批判して見せた。だが差別・排外主義者が格差社会を変えるはずがない。99%の民衆を分断する役割を果たしたのだ。

 6月11、18日には国民議会選挙が控える。労働者の味方面をしたルペンにまどわされた票、棄権に回った票を新自由主義反対、左翼勢力支持へと結実させなければならない。新自由主義転換へ左翼統一が求められている。

 

財閥癒着政権への批判

 5月9日の韓国大統領選挙の結果は、「革新系」とされる「共に民主党」文在寅(ムンジェイン)候補が41・1%の得票率で、前政権継承勢力の「自由韓国党」洪準杓(ホンジュンピョ)候補(得票率24%)らを大きく引き離し勝利した。朴槿恵(パククネ)の大統領罷免により急きょ行われた選挙。誰しも不正・腐敗をなくすと口にする中で、前回大統領選挙(2012年)で朴に肉薄した文候補に政権交代の期待が集まった。

 選挙期間中、トランプ―安倍の戦争挑発、朝鮮(朝鮮民主主義人民共和国)のミサイル発射が繰り返された。洪候補が「米国の戦術核を再配置し、核均衡時代をひらく」と明言するなど保守・右翼勢力が軍事的圧力強化の立場をとる中で、「6者会談の再開、米朝関係改善の誘導など朝鮮を対話の場に引き出す」と平和的解決の姿勢を示した文候補が支持された意味は大きい。

 韓国は極端な競争社会で貧困格差、就職難など、若者が「ヘル(地獄)朝鮮」と口にする状況にある。財閥との癒着、国家私物化に対する若者の怒りは、大統領罷免を実現した「キャンドル革命」の原動力だ。その20代から40代の年齢層で文候補の支持率は抜きんでている。この期待に応える政策実現・実行が問われる。

新自由主義の転換へ

 フランス、韓国の大統領選挙にとどまらず、いま世界各国で変革を求める声は大きくなっている。職がない、働いても食えない。その一方で、8人の超富裕者が36億人の人びとと同等の資産を手にする不平等社会。格差は年々拡大する一方だ。富の再配分に背を向ける既存政治に対する怒りの根源だ。

 昨年、フランスではオランド社会党政権下で労働時間の延長や超勤割増率の低減などを狙う労働法改悪が提案された。反対の闘いは労働者だけでなく、大学生・高校生にまで広がった。それをきっかけに「ニュイ・ドゥブ(夜に立ち上がれ)」と呼ぶ運動が生まれた。広場を占拠し、議論する若者たちはネットを通じてパリからいくつかの街に急速に広がった。2011年に始まる新自由主義に抗する「怒れる若者たち」―スペインの反緊縮・反腐敗を掲げた15M運動やウォール街のオキュパイ運動と同様だ。

 マクロン当選後、すぐさま抗議の行動が起こった。労働組合の呼び掛けにこたえ、パリ、リヨン、ナントなどいくつもの街でデモが行われた。

 韓国でも文大統領誕生は闘いの始まりだ。文大統領は、トランプ大統領との電話会談では「韓米同盟は安保政策の根幹だ」と語り、THAAD(サード:高高度防衛ミサイル)配備中止には触れなかった。「現実路線」の名の妥協や転換を許さない運動が問われている。朴罷免を実現した朴槿恵政権退陣緊急国民行動は「完成ではなく、始まり。キャンドル市民に約束した課題を適切に履行するよう両眼を見開いて見守る」と声明を出している(別掲参照)。

 EUでは、フランス・英国・ドイツと議会選挙が続く。極右勢力の台頭を許さず、新自由主義政策転換を掲げ、民衆の怒りを一つにすることがますます重要となっている。
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