2017年05月26日 1478号

【ドクター林 県民健康調査にがん隠し疑惑】

 福島での甲状腺がん多発を科学的に証明した岡山大学の津田敏秀教授と、多発でないと主張する広島赤十字病院の西美和氏が4月1日の大阪小児科学会で討議しました。医問研の高松勇氏の司会で、日本の学会としては初めてこの問題で対立する意見が議論され、津田氏の科学性がより鮮明になりました。

 その報告をするはずでしたが、福島県県民健康調査での疑惑がマスコミやネットで報道され、私も疑惑解明の資料を見つけましたので、急きょその件をお伝えすることにします。

 福島原発事故当時4歳だった男児が、1次検査で異常のため2次検査を受けましたが、がんではないとして「経過観察等」になりました。その後彼からがんが発見されたのですが、同調査ではがんとして数えられていないことが判明したのです。

 このように「経過観察等」になった人は、甲状腺の中に5ミリ以上の塊(硬結)がある人がほとんどで、多くのがん患者が無視されると批判されています。しかし、何人くらいが無視されるのかに論究した人はいないようです。

 このニュースを聞いた私は、調査を策定したと考えられる山下俊一氏などがこの「経過観察等」のグループから高率にがんが発見されることを知っていた証拠となる論文を思い出しました。彼らは、チェルノブイリ周辺で、福島での「経過観察等」と似た集団からどれだけのがんが発生するかの調査を実施し、医学論文として発表していたのです。

 その論文によれば、1991年から2001年のチェルノブイリ周辺の検診で硬結をもった160人を追跡し、2009年から2010年の間に再度検査したところ、7・5%もの「がんないしがん疑い」を発見、「硬結を有することはがん発生の潜在的な危険因子」と書いているのです。この実験は福島の検診とはいくつかの相違点がありますが、硬結を持つ人から多くのがんが発見されることを示しています。

 福島の健康調査で「経過観察等」は現在約2500人ですから、その数%のがんが8〜19年後に発見されると推定されます。

 私がこの論文を読んだ時は、福島の硬結を持った人もがん発生率が高いだろうと思っただけでした。が、原子力ムラの学者達は利用方法が違っていたのです。山下氏らは、2010年に調査を終え、2012年6月には論文を投稿しています。検診計画作成当時、結果を知っていたはずです。検査計画としては異例である、がん発生の危険性が極めて高い「経過観察等」を検診枠から外して2012年以後も修正していないことは、山下氏らががん発見隠しを意図していた疑いが濃厚です。

    (筆者は小児科医) 
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