2017年05月26日 1478号

【「北朝鮮情勢」と安倍政権/誰よりも「戦争挑発」の異常事態/森友隠し、改憲誘導は明らか】

 「戦争バカ」と認定していいと思う。安倍晋三首相のことである。トランプ米大統領が作り出した「北朝鮮危機」に便乗し、トランプ以上に「戦争突入の危機」を煽り立てている。「弾道ミサイルの脅威」を強調する情報をたれ流し、御用メディアに増幅させる。「恐怖」で世論を操り、改憲賛成へと誘導する意図が見え見えではないか。

「ミサイルの脅威」煽る

 まずは御用メディアを使った世論操作の手口をみていこう。5月4日付の産経新聞は、自衛隊戦闘機による米軍戦略爆撃機の護衛訓練が行われていたと報じた。「複数の政府関係者が明らかにした」もので、「北朝鮮への圧力強化の一環で、米軍による軍事行動をにらんだ日米連携を誇示する狙いがある」という。

 同紙は6日付の記事でも「(政府は)巡航ミサイルの将来的な導入に向けた本格検討に入った」と報じている。これまた「政府関係者が明らかにした」もので、「弾道ミサイル発射拠点」を破壊する「敵基地攻撃能力」の保有を目指すという。

 いずれも「専守防衛」という自衛隊の建前をはるかに超えている。「北朝鮮の脅威」を煽り、やられる前にやってしまえと世論を焚きつければ、自衛隊の侵略軍化を一気に進めることも可能だ−−そんな妄想を抱くほど安倍政権は調子に乗っているようだ。

 実際、安倍政権は明日にでもミサイルが日本に降り注ぐかのような空気を煽りまくっている。政府は4月21日、都道府県の危機管理担当者を集めた説明会の場で「北朝鮮の弾道ミサイル着弾を想定した住民避難訓練」を行うよう要請した。3月に秋田県男鹿市でミサイル着弾を想定した住民避難訓練が行われていたが、全都道府県に要請があったのは初めてのことである。

 同日、内閣官房が「弾道ミサイルが落下する可能性があった場合にとるべき行動」を消防庁に通知。これを受けるかたちで全国の小中学校・高校でも注意喚起の文書が配布されたりした。24日には首相官邸がメールマガジンでミサイル警戒情報を発信した。

 安倍首相も「北朝鮮はサリンを弾頭に付けて着弾させる能力を保有している可能性がある」(4/13参院外交防衛委員会)と発言。何の根拠もない話だが、人びとを不安にさせるには十分であった。

不安を与える目的

 そして4月29日早朝、「北朝鮮がミサイル発射」の一報を受け、東京の地下鉄や北陸新幹線などが一時運転を見合わせた。「ついに来たか」と感じた人もいるだろう。ところが、日本以上にミサイル攻撃の標的になるはずの韓国の様子はいたって平穏であった。現地のメディアは日本の騒動を「『失敗した』ミサイル発射に地下鉄まで止めた日本」(4/30聯合ニュース)と冷ややかに伝えた。

 韓国の反応が示すように、安倍官邸主導の「ミサイル対策」は明らかに騒ぎすぎである。いや、騒いで人びとに不安を与えることに目的があると言っていい。これは「戦時ムード」を演出するための、自治体・企業を巻き込んだキャンペーンなのだ。

 1933年8月、「関東防空大演習を嗤(わら)う」という社説が信濃毎日新聞に掲載された。主筆の桐生悠々は、いかなる防御態勢をとっても空襲は避けられず、木造家屋の多い東京は焦土化すると断言。関東上空で敵機を迎え撃つような作戦計画は無意味と喝破した。この論考が軍部の怒りを買い、桐生は退社に追い込まれることになるのだが、彼の指摘は現在の安倍政権に対しても有効な批判となっている。

 万一、米朝開戦が勃発すれば、全土が米軍の兵站拠点となっている日本は当然、攻撃目標となる。「ミサイル迎撃」も「敵基地攻撃」も現実的ではないことは多くの軍事評論家が指摘するとおり。退避マニュアルなど気やすめにもならない。戦争になれば、甚大な被害が発生することは避けられないのである。

 「総理大臣はいかなる事態にあっても、国民の命を守る責任がある」(安倍首相)と言うならば、日本政府が今やるべきは米国と一緒になって戦争挑発を行うことでも、戦争への備えを国民に呼び掛けることでもない。米朝両国首脳に自制を求めるなど、軍事的衝突回避の外交努力を行うことではないか。

対話を拒む安倍首相

 ANNの世論調査(4/22〜23実施)によると、「外交による話し合いが必要」という意見は68%に上り、「米国による武力行使が必要」はわずか17%であった。大多数の世論は対話による解決を求めているのである。

 それなのに安倍首相ときたら、トランプですら対話を口にし始めたというのに、「対話のための対話は何の解決にもつながらない」とうそぶき、軍事的圧力強化を叫び続けている。「北朝鮮危機」が続けば森友学園問題から世間の関心をそらすことができるし、共謀罪法案を通すにも有利だ。何より憲法9条の破壊を既成事実化させ、世論を改憲容認へと導ける−−そんな計算をしているのだろう。

 事実、「官邸スタッフ」はこう述べているという。「北朝鮮情勢が緊迫してきてから、安倍さんはすっかり元気になって、『ツキがまわってきた』と側近たちに話しています。『安保法制も、集団的自衛権も、やっておいてよかっただろ。シナリオ通りだよ』とも」(週刊現代5月6日・13日合併号)。

 英国のBBCは安倍首相を「日本の平和憲法を廃止しようしているナショナリスト」と呼び、「北朝鮮の脅威が増大することは彼にとって有益だ」と分析した。的を射た指摘と言えよう。自分の野望のために戦争の危機を煽るバカ者は一日も早く退場させねばならない。     (M)



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