2017年06月09日 1480号

【共謀罪と「一般の人」/捜査対象外と政府は言うが…/「物言う市民」はフツーじゃない?!】

 「一般の人」は共謀罪の捜査対象になるのか、ならないのか。安倍首相や金田法相は「100%あり得ない」の一点張りだが、連中の答弁には恐るべき本音が隠されている。安倍政権からみれば、自由や権利を主張する「物言う市民」は一般人ではない。だから、共謀罪で取り締まるということなのだ。

詭弁に隠された本音

 論戦の舞台を参院に移した共謀罪法案。衆院の審議では、「一般人問題」をめぐり盛山正仁法務副大臣が自身の答弁を修正する一幕があった。

 4月21日の衆院法務委員会。盛山は「一般の人が(共謀罪の捜査の)対象にならないということはないが、ボリュームは大変限られている」と答弁した。「一般の人は捜査対象になる」と認めた瞬間だった。「ありえない」と断言してきた首相や法相の答弁とは明らかに食い違っている。

 この点を野党に追及されると、盛山は次のような詭弁を弄して、これまでの政府答弁との整合性を図ろうとした。「犯罪の嫌疑が生じている以上は(その人は)組織的犯罪集団とかかわりのない人ではない。一般の方には含まれない」(4/28衆院法務委員会)

 “犯罪の嫌疑を受けた者は、その段階で一般人ではない。だから一般人を捜査対象にしたことにはならない”というのである。滅茶苦茶かつ恐るべき発言というほかない。捜査当局が怪しいと見なした者は一般人ではないというのか。刑事裁判の無罪推定原則を完全に無視している。

 盛山の答弁はあまりにひどいが、そこには安倍自民党の本音が見え隠れする。連中は本気で“一般人か否かは警察が決めることだ”と考えている。事実、自民党は若者に人気のイベント(4/29〜4/30ニコニコ超会議)で、次のような内容の共謀罪PRチラシを配布していた。

 〈もちろん、フツーの人が捕まるなんてことはない。「デマ」を流す人は、この法律ができたら困るから〉。要するに、共謀罪法案を「デマ」と決めつけ、反対する者は「フツーじゃない人=テロリスト」というイメージを振りまいているのである。

標的は「声上げる人」

 政権に従わず批判するような不埒(ふらち)な輩(やから)は「一般人」にあらず−−安倍政権がそう考えていることに気づき始めた人もいる。一例をあげよう。5月17日付の朝日新聞(大阪本社版)「声」欄に掲載された意見である。

 投稿者は75歳の女性。40台半ばからある人権団体で活動し、原発反対の集会やデモにも時々参加するという。彼女は「声上げる人『共謀罪』対象?」と問いかける。

 「国のいう『一般人』とは『見ざる』『言わざる』『聞かざる』で生きる人のことでしょうか。全ての人の毎日の生活が平穏なものなら、誰も不平を言わないでしょう。苦しむ人に思いを寄せ、共に声をあげたいと思うのが一般人だと思いますが。そうすると『共謀罪』になりますか?」

 残念ながら、答えはイエスだ。安倍政権が認める「一般人」とは「国家に奉仕する従順で受け身な国民」のことを指す。彼らが大好きな「教育勅語」風に言うと、「常に国憲を重んじ国法に遵(したが)い、一旦緩急あれば義勇公に奉じ」る者だけが対象なのである。

 「声を上げる人=自律的な個人」を安倍政権は「一般市民」と見なしていない。ネトウヨ用語でいうところの「プロ市民」として、監視と摘発の対象にしている。そのための強力な新兵器が共謀罪というわけだ。

社会を萎縮させる

 「そう言うけどさ、フツーの人は政治的な活動に関わらないんじゃないの」と言う人もいるだろう。そういう風潮があるのは事実である。若い世代では「常識」かもしれない。大学生の間では「政治アカウントをフォローすると就職活動に不利になる」とまで言われているという。「企業は就活生のツイッターやフェイスブックを調べるので、誰のどんな意見に賛同しているか、すぐに解ってしまう。だからSEALDsみたいな連中とは絶対につながらない」のだそうだ。

 何とも息苦しい話だが、これが今の若者たちのリアルなのだろう。疑われないように、目を付けられないように、自分の言動に自ら縛りをかけていく−−そうした監視社会の人心制御システムがすでに効力を発揮している。

 これに共謀罪による監視が加わったらどうなるか。自由にモノも言えなくなる。「安倍倒せ」と叫ぶ人たちとつながるなんてもってのほか…。このようにして人びとを萎縮させ、政権批判を未然に封じることが共謀罪法案の本当の狙いなのだ。

 「今われわれが手にしている自由を得るため、歴史上どれだけたくさんの人が闘ってきたのか考えてほしい。国家が唱える『安全』という言葉の先にどんな社会が待っているのか、想像力を働かせなければならない」。映画監督の周防正行が共謀罪法案について述べたコメントである(5/9東京新聞)。

 おかしいことをおかしいと言えないような暗黒社会に住みたいか。私は絶対にご免である。(M)

  
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