2017年06月30日 1483号

【イギリス総選挙でコービン労働党躍進 「少数ではなく多くの人のために」 反貧困・反緊縮を若者も支持り】

 6月8日、イギリス総選挙(下院、定数650)が投開票された。新自由主義推進のメイ首相が率いる保守党は議席数を330から318へと減らして単独過半数割れ。反貧困・反緊縮を掲げたコービン党首率いる労働党は229から262へと増やした。与党・保守党は敗北し、最大野党・労働党が躍進した。

 選挙序盤、4月の世論調査では、保守党の支持率が40%台後半だったのに対し、労働党は20%台に低迷していた。しかし、その後、両党の支持率は徐々に縮まり、5月末には、保守党42%、労働党39%まで拮抗(きっこう)。総選挙後では、保守党39%、労働党45%と逆転し、「メイ首相は辞任すべきだ」も48%に上っている。

大学授業料無償化に支持

 労働党の躍進をもたらした大きな要因は、若者層でのかつてない支持拡大である。労働党は選挙マニフェストで大学授業料の無償化を打ち出した。イギリスでは、かつて無償だった大学授業料が90年代後半から有料となり、現在では年間9千ポンド(約130万円)に達する。学生の多くは卒業時に4万4千ポンド(約630万円)の負債を抱えることになる。

 こうした中で、労働党の授業料無償化政策は、若者の心をつかんだ。今回の総選挙の投票率は68・7%で、1997年以来の高水準となった。英スカイニュースによれば、18〜24歳の若年層の投票率は66・4%に達し、2015年の43%から大幅に上昇、18〜34歳の63%が労働党に投票したという(6/14日経新聞)。


反貧困政策と草の根の運動

 もちろん若者層だけではない。保守党が選挙政策で高齢者自宅介護の自己負担増を打ち出し「認知症税」と批判されたのに対し、格差や貧困の拡大に反対する地域の市民からも労働党は支持を得た。

 労働党は、「FOR THE MANY NOT FOR FEW(少数ではなく、多数の人のために)」と題した選挙マニフェストを示し、反貧困・反緊縮を基軸とした。コービンはマニフェスト序文で「誰もが抑圧されることのないより公正な英国を築こう。すべての人が職場や家庭で安心して過ごせ、尊厳をもって暮らすことができる国へ」と訴えた。

 労働党マニフェストは、福祉、医療、教育といった公共サービスを維持・拡充させることを正面に掲げた。財源に関わる税制政策では、上位5%の富裕層への増税や大企業への法人税増税が打ち出された。さらに、水道や郵便、鉄道の再国有化も明記した。

 労働政策に関しても、18歳以上の労働者の最低賃金を2020年までに生活賃金水準(最低限の人間的な生活を維持できる水準)である10ポンド(約1400円)に引き上げることが掲げられていた。現在のイギリスでは、25歳以上の最低賃金が7・50ポンド、21〜24歳が7・05.ポンド、18〜20歳が5・60ポンドである(労働政策研究・研修機構「生活賃金と最低賃金の動向」)。このことを考えれば、最低賃金の10ポンドへの引き上げは、若年労働者を中心とした低賃金労働者の生活にとって非常に重要な課題であり、大きな共感と支持を得たことは間違いない。

 イギリス在住のブレイディみかこ氏は次のように述べている。「総選挙3日前、息子の学校の前でPTAが労働党のチラシを配っていた。その翌日、治療で国立病院に行くと、外の舗道で人びとが労働党のチラシを配っていた。今年で英国に住んで21年目になるが、こんな選挙前の光景は見たことない」(6/9「2017英総選挙」)。若者、貧困層、そして新自由主義緊縮政策で切り捨てられてきた99%の人びとの中に変化の兆しが表れているのである。

民主主義的社会主義へ

 今回の選挙では、コービン率いる労働党左派の支持者と、アメリカで民主的社会主義者を自認するバーニー・サンダースの支持者が連携していたと報じられている(6/9毎日)。レーガン・サッチャー以来、大西洋の両岸で新自由主義の先頭を走ってきた米英両国で、反緊縮・反新自由主義の政策が、また、社会主義を公然と志向する勢力が、若者や草の根の運動の担い手によって支持されるという、社会的な変化が起きている。

 こうした変化は、反新自由主義政策にとどまらず、民主主義的社会主義を明確に打ち出すことの今日的意義とその展望を示すものでもある。

【労働党マニフェスト (骨子)】

・大学授業料の無償化

・2020年までの最低賃金の10ポンドへの引き上げ

・公的な福祉、医療サービスの維持・拡充

・所得8万ポンド(約1100万円)以上への所得税45%、12万3千ポンド(約1700万円)以上への50%など富裕層(上位5%)増税、大企業への法人課税強化

・民営化された鉄道の再国有化、水道会社の国有化

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