2017年06月30日 1483号

【解雇の金銭解決制度許すな 導入ありきで論議開始】

 5月29日、厚生労働省「透明かつ公正な労働紛争解決システム等の在り方に関する検討会」は、裁判で無効とされた解雇についての金銭解決制度に関する報告書をまとめた。

 2015年10月からの検討会で、経営側、御用学者と労働組合、労働弁護士の意見は一貫して平行線であった。報告書は、賛否両論が併記され、「コンセンサス(合意)が必ずしも得られたわけではない」「必要ないとの意見を今後の議論で十分に考慮することが適当」としながら、突然、必要性について「一定程度認められ得る」と結論付けた。厚労省はこの報告書を労働政策審議会に送る。制度導入ありきの暴挙だ。

労働者の要求ではない

 解雇の金銭解決制度を巡っては、過去2回、導入が検討されたが、労働側の反発が強く実現しなかった。安倍政権は16年6月、日本再興戦略に金銭解決制度の議論を再開する方針を盛り込み、厚労省が有識者検討会を設置して議論してきた。検討会の鶴光太郎慶大教授は「日本再興戦略ですでに閣議決定されている。その議論で考えるべきだ」と導入強要を発言している。安倍は、労働法制は政労使三者構成の合意で決定するILO(国際労働機関)原則をまたも破壊しようとしている。

 検討会はこれまで、(1)裁判で解雇無効の判決が出た場合の金銭解決の仕組み(2)解雇を不法行為として損害賠償を請求できる仕組み(3)一定の要件を満たす場合に金銭の支払いを請求できる権利を新たに設ける仕組み―を検討してきた。報告書は、(1)・(2)は「課題が多い」「創設困難」、(3)のみ「さらに検討していくべき課題が多い」としつつ具体的検討を進めていくとした。(3)は、不当解雇された労働者が職場復帰を求めずとも、解決金の支払いを要求できる権利を与える制度の導入だ。

 報告書は、裁判などでの金銭の算定について「予見可能性を高めることが重要」として「具体的な金銭水準の基準(上限、下限等)を設定することが適当」とした。(3)の制度を企業側から利用を申し立てられるかについて、原案では「導入は困難」だったが、最終的には「容易でない課題がある」と表現を弱めた。

ほとんどが泣き寝入り

 解雇の金銭解決制度導入に労働組合や労働弁護団などから強い反対があるのは、導入すると不当な解雇が増えるからだ。現在も、多くの労働者が不当解雇で泣き寝入りを強いられている。「解雇を金銭で解決できる制度」を認めると、使用者側の雇用確保に対するモラルは崩壊し、不当解雇がいっそう蔓延する。当然の権利を主張した労働者が使用者によって簡単に職場から排除される危険性が強く、労働者側は反発している。

 使用者側は、こうした反発を想定して、今回は申し立て権を労働者側に限定した制度を提起。「労働者側にだけ解雇の金銭解決制度の申立権を与えるので、使用者側による悪用の危険性はない」「解雇無効等を訴えることのできる労働者はごく一部であり、ほとんどが泣き寝入りしているので、そのような者を救えるシステム」と導入必要論を展開した。このような「労働者にメリット」論は全くでたらめだ。派遣法大改悪時は「正社員化を促進する」と言い、「残業代ゼロ法案」を「長時間労働を是正」とデマ宣伝しているのと同じ手法だ。

 現在もほとんどの解雇事件は金銭解決で終了している。解雇の金銭解決制度導入の要求は労働者側にはない。多くの解雇された労働者は、撤回を求めつつも、裁判所の手続きや労働組合の団体交渉など様々な形で金銭解決している。

指名解雇したい放題狙う

 経営側が考える最大の狙いは、解雇紛争時の予測可能性だ。現在の金銭解決水準は一定ではなく、裁判をはじめ多大なコストや時間がかかる可能性がある。経営側は、解雇する場合のコスト=必要経費を予見したいのだ。具体的な金銭水準の上限を決めることが経営側の狙いだ。この制度ができれば、経営側は整理解雇4要件(注)を無視した指名解雇でも平気で行い、「長期の裁判をしても上限しか取れない」と労働者を諦めさせることが可能になる。

 泣き寝入りしている労働者は金銭解決制度では救済できない。解雇された労働者に長期の失業給付を与え、裁判費用を無償化するなどの支援を行えば、みな不当解雇撤回に立ち上がる。

 夏にも労政審が始まる。全労働者の怒りを集中して3回目の導入断念を勝ち取ろう。

(注)(1)解雇の必要性(2)解雇回避努力義務(3)被解雇者選定の合理性(4)手続きの妥当性

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