2017年06月30日 1483号

【プルトニウム36万ベクレル被曝 原子力機構事故と被曝隠し 命顧みない原発推進の末路】

 日本原子力研究開発機構大洗研究開発センター(茨城県大洗町)で6月6日、プルトニウムを入れた容器が破裂、5人の作業員がプルトニウムを大量に吸い込み内部被曝する事故が起きた。命にかかわる大事故にもかかわらず、はやメディアは報道しなくなり、原因究明もまだだ。被曝隠しを許してはならない。

 原子力機構は6月7日、5人のうち1人が肺に2万2千ベクレルの内部被曝をしたと公表。この数値を基に、血液や骨、臓器など全身に取り込まれた放射性物質の量を36万ベクレル、被曝線量は50年間で12シーベルトと推定している。ICRP(国際放射線防護委員会)は全身への急性被曝の場合の致死量を7シーベルトとしており、これを大幅に上回る。研究施設での内部被曝事故としては過去最悪のものだ。


防護も退避もさせず

 作業員が被曝した放射性物質は、プルトニウム239とアメリシウム241。ともに、人体にとって最も危険なアルファ線を放出する。アルファ線は飛距離こそ短いが、遺伝子を破壊する力が大きいため、内部被曝の場合最も危険だ。

 事故はプルトニウムを保管しているポリエチレン製容器を点検しているときに起きた。容器の蓋を固定しているボルトを外した際、容器の中で放射性物質を包んでいたビニール袋が破裂。被曝した作業員が「腹部に風圧を感じた」と証言するほどの圧力で放射性物質が飛び散った。作業員は全身を覆う防護服は着用せず、鼻と口を微粒子吸引防止用のマスクで覆っていただけとの報道もある。追加被曝を防ぐため、作業員を直ちに退避させなければならなかったが、原子力機構は放射性物質の拡散防止の名目で、作業員を退避もさせないまま事故のあった建物の一室に3時間も閉じ込め、命を顧みなかった。

 東海村のJCO東海事業所で起きた臨界事故(1999年)を想起させる。危険なウラン溶液を作業員がバケツで移し替えようとして臨界を招いたこの事故では、作業員が最も危険といわれる中性子線を浴びて死亡している。

背景に「常陽」再稼働

 そもそも原子力機構にとって、今回の事故を招いた燃料点検作業自体、過去の失敗の後始末とでもいうべきものだ。高速増殖炉「もんじゅ」で1万件を超える点検漏れが見つかり、原子力機構は原子力規制委員会から是正を求められるとともに、「もんじゅ」を運転する資格がないとして「退場勧告」を受けた。今年2月には、複数の施設で核燃料物質が保管すべきではない場所に長期間置かれていたとして改善を求められた。被曝した作業員は対象となった放射性物質の保管場所を探す一環としてこの点検作業を行っていた。放射性物質のずさんな管理が新たな事故を呼ぶ。まさに負の連鎖だ。

 実験炉「常陽」の再稼働がこの事故の背景とする声もある。昨年廃炉が決まった「もんじゅ」に代わり、原子力機構は3月、新「規制基準」に基づく「常陽」の適合性審査を規制委に申請した。「常陽」用の貯蔵核燃料の整理作業の中で今回の事故が起きたのではと指摘するのは、東海村で長く反原発運動に関わってきた相沢一正さんだ。1977年の初臨界から今年で40年を迎える老朽原子炉「常陽」は廃炉にするのが当然で、再稼働など言語道断だ。

早くも被曝もみ消し

 事故原因究明もこれからなのに、原子力ムラによる被曝もみ消しの動きが早くも始まった。作業員が送られた放射線医学総合研究所(放医研)が「複数回の検査で肺からプルトニウムが検出されなかった」と発表したのだ。

 放医研が行ったのは「肺モニタ」。アルファ線は紙1枚も透過できないため、同時に放出される微弱なX線エネルギーを検出してプルトニウムの量を推定するというものだ。だが、事故を起こした原子力機構自身が「検出下限値が高く、その結果が検出下限値未満であっても内部被曝がなかったことを示すものではない」と説明している検査方法だ。いわば検出できないとわかっている方法で検査し、不検出と公表する典型的なヤラセである。しかもこの発表に真っ先に飛びつき報道したのが「安倍政権御用宣伝紙」読売新聞というおまけ付きだ。

 一方、朝日新聞は作業員からアメリシウム241が検出された事実を報じた。プルトニウム239が核崩壊して生まれる放射性物質だ。これが検出されたのは、そこにプルトニウム239が存在していたことを示している。

 放医研は、過去何度も被曝のもみ消しに直接関与してきた。福島事故直後の2011年3月にも、作業員が高濃度汚染水に誤って足をつけ火傷を負う事故があったが、このときも放医研に送られた作業員は続報がないままうやむやにされた。放医研は被曝労働者を「消す」ための組織だ。

 そもそも、放医研元理事で現在も上部機関・量子科学技術研究開発機構の執行役を務める明石真言は、福島での低線量被曝について「直ちに健康に影響はない」と国会で証言。今なお甲状腺がんとの因果関係を否定し続ける福島県民健康調査検討委員会の委員も務める。ビキニ島水爆実験被害者への保険適用を審査する「有識者会議」座長として、非公開で議事録もない秘密会議を開催、被害者への保険適用を今も認めようとしない。明石はビキニ、福島、今回の事故のすべてで健康被害もみ消しを続けるA級戦犯だ。

事故は安倍を直撃

 今回の事故は同時に「もんじゅ」の失敗で核燃料サイクルが実質的破たんに追い込まれている政府の焦りが生み出したともいえる。日本は現在、非核保有国としては唯一「公式」にプルトニウム保有が認められている。その保有量は47トンであり、核保有国・中国さえ上回る。日本が制裁強化を繰り返す朝鮮のプルトニウム保有量は0・03トン。朝鮮より日本の方が国際的に疑念を持たれる状況なのだ。

 日本にプルトニウム保有を認める根拠となってきた日米原子力協定は、1988年の改定から30年の来年、更新を迎える。使う見込みのないプルトニウムを核保有国以上にため込み、世界から疑念を向けられる中で、原子力協定の更新が迫る。そこに追い打ちをかけた今回の事故だ。これで「常陽」の再稼働が止まれば、日本の原発推進政策はプルトニウム問題によって一気に崩壊する可能性がある。

 それでも経産省は、近く見直すエネルギー基本政策に原発新増設を明記しようとしている(6/9日経)。安倍政権の原発推進政策の破綻はもはや隠せない。全原発廃炉以外に選択肢はないのである。

 
ホームページに戻る
Copyright Weekly MDS