2017年06月30日 1483号

【どくしょ室 正社員消滅 竹信三恵子著 朝日新書760円+税 すべての働き手の生存権回復を】

 本書でいう「正社員消滅」とは、二つの意味がある。一つは文字通り、労働現場から正社員が消滅し、非正社員が正社員並みの働きを要求されていることである。二つ目には、終身雇用、年功賃金、福利厚生が保障されたかつての正社員の意味が変質させられた現実を指している。

 ある大手スーパーに出店している総菜販売店は、材料の仕入れ、調理、販売などすべてがパートに任され、正社員は定期的に巡回してくるだけ。パートリーダーがシフトや売れ筋商品の選定など実質店長の役割を負わされている。ハローワークの職場でも、3年契約の契約社員が相談窓口を任され、職業安定を実現する職員が不安定雇用という皮肉な現実に置かれている。

 非正社員の増大は正社員の雇用形態にも大きな変化をもたらした。正社員と非正社員の賃金格差の根拠として、正社員は責任が重いとされた。正社員には転勤や長時間残業に応じる義務があり、その見返りとして賃金が高く、ボーナスなど非正社員にない待遇を受けることができる。こうした論理が正社員の働き方をブラック化していった。

 正社員を「全身会社員」とすべく、寺院に宿泊して「川行」など修行を強制、社長との食事会やボランティアへの強制参加、営業成績が悪いとケツバットの制裁。こうしたやり方に疑問を呈すると、仕事外しを受ける。正社員の「高拘束化」は非正社員の働かせ方もブラック化させていった。学生アルバイトに対して週40時間の勤務を強制し、遅刻、欠勤で罰金を科す。ブラックバイトを苦に自殺する者もでている。

 大手企業では人材派遣の子会社を持つ企業が増えた。希望退職者を募り、子会社の派遣会社が退職者を引き受け、元の職場に派遣労働者として送り込む。まさしく正社員を非正社員に置き換えるシステムを作っているのだ。派遣労働者への置き換えは、2015年労働者派遣法が改悪され無期限派遣を解禁したことで一層進むと考えられる。

 安倍政権は「同一労働同一賃金の実現、非正規を一掃する」と宣言している。しかしその実態は労働者の安定雇用とは真逆の政策である。正社員を「限定正社員」と「無制限正社員」に分け、「限定正社員」には労働時間、勤務地などを限定を認める一方、「無制限社員」は残業、転勤をはじめ全面的な過重負担を負わせ、賃金格差を合理化する。また「整理解雇4要件」規制の撤廃、「残業代ゼロ」の法制化、過労死ライン100時間残業の合法化など、すべてグローバル資本の要求に基づく「改革」だ。

 最終章で著者は「正社員の身分を守る、という発想を捨て、生存権に立った働き方としての正社員の要件をすべての働き手に回復することが正社員の本当の安心につながる」など、ノーと言える自分づくりの視点を提示している。 (N)
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