2017年07月07日 1484号

【待機児童ゼロ3年先送り 解決放棄する安倍政権 元凶は規制緩和―公立保育所つぶし】

 安倍首相は5月31日、公約であったはずの「2017年度末待機児童ゼロ」について、その見通しが立たないことから3年先送りすることを表明した。なおも「今度こそ待機児童問題に終止符を打つ」と勇ましいが、これまでの政策が失敗しているのだから実現可能性はないに等しい。

 昨年10月時点での待機児童数は約4万8千人で2年連続増。昨年4月と比べると倍増しており、育児と介護のダブルケアをする人でさえ入所できない実態があるように問題は深刻化している。

 安倍政権は「夢を紡ぐ子育て支援」の名で待機児童問題を「優先課題」とするもののかけ声だけ。6月2日、今度は「子育て安心プラン」を発表したが、これも全く同様だ。

数字だけの「安心プラン」

 「子育て安心プラン」は、18年度から2年間で約22万人の受け皿をつくる予算を確保して待機児童問題を解消させる、女性の就業率上昇に対応するため21、22年度で約10万人分の受け皿を整備するとして、「支援パッケージ」を打ち出している。

 支援パッケージの第一は「保育の受け皿の拡大」。「更なる都市部対策と既存施設の活用、多様な保育を推進する」として、都市部における高騰した保育園の賃借料への補助、大規模マンションでの保育園の設置促進、幼稚園における2歳児の受け入れや預かり保育、企業主導型保育事業の地域枠拡充、国有地・都市公園等活用などを掲げた。

 第二は「保育の受け皿拡大を支える『保育人材確保』」。その内容は、保育補助者を育成し、保育士の業務負担を軽減することとされる。

 安倍政権はすでに13年度から「待機児童解消加速化プラン」をスタートさせ、17年度末までに53万人増の計画を立てていた。先送りは計画失敗を明らかにしたが、「子育て安心プラン」はその原因を検討しない。都合のいい数字を並べるだけなのだ。

待機児童問題の根源

 2000年に株式会社による運営が解禁され、01年には園庭を近くの公園でも可とするなど、規制緩和攻撃が保育分野を直撃した。いくつかの自治体は株式会社の参入に一定の歯止めをかけていたが、15年度の「子ども子育て支援制度」以降はそれもできなくなった。その結果、株式会社運営の保育所が12年1・6%から16年5・2%へ急増した。

 この動きに連動して公立保育所つぶしが強行されてきた。1994年での公立と私立の比率は、6対4であった。それが逆転し、16年では4対6となっている。

 背景に何があるのか。

 公立保育所に補助されていた運営費は04年度から、施設整備費は06年度から一般財源化された。一般財源化されると保育所以外に財源を使うことができるため、保育所運営から手を引く自治体が増えることとなった。コスト高を理由に民営化が進められた。

 また、14年には公共施設の統廃合を進める「公共施設等総合管理計画」の策定が国から求められた。統廃合の実行によって財政的な優遇策を受けることができる。待機児童問題が大きくなってきたにもかかわらず、逆に自治体は保育所運営から手を引き、新規の設置もできなくなってしまったのである。

 規制緩和攻撃は続いている。小規模保育施設や企業主導型保育事業が待機児童問題解消策の一つとされるが、それらは保育士資格者が半数で認可される。16年度からは保育士の特例配置が始まり、児童が少ない朝夕の時間帯で保育士2名を1名にすることが可能になった。保育の質より数字だけの「受け皿重視」なのだ。


保育所直接補助の復活を

 以上のように、安倍政権が公立保育所つぶしを強行しながら待機児童対策として劣悪な受け皿づくりをしている。こうした規制緩和による攻撃を止めなければ待機児童問題を解決することはできない。

 保育所への直接補助の復活などが自治体から要求されている。有効な財源確保があれば、自治体は保育所運営を継続することができるからだ。深刻な保育士不足がある中で、東京都北区が正規保育士を募集したところ、6倍以上の応募があった。適正な労働条件があれば保育士不足も解決に向かう。

 骨太方針2017は「幼児教育・保育の早期無償化」という口当たりのいい提言をしている。無償化は当然として、リップサービスで待機児童問題を3年も先送りさせることは許されない。富裕層や大企業への適正な課税、軍事費削減で、保育所増設、保育士賃上げのために必要な財源を早急に確保するべきである。
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