2017年07月14日 1485号

【あせりの安倍暴走改憲/9条「残し」護憲勢力分断狙う/市民の運動で改憲阻止の共闘を】

 「臨時国会に自民党改憲案を出す」―自民党総裁安倍晋三が改憲手続きを早める発言をした。「年内作成」としていたスケジュールをさらに短縮するという。支持率急降下の中、安倍は解散時期をにらみながら、日本会議が描いた「護憲勢力の分断」戦略を実行に移している。「9条に自衛隊追記」との「加憲」の狙いを暴き、「戦争法制廃止、改憲阻止」を掲げ、市民・野党共闘を一層拡大する時だ。

臨時国会に改憲案

 安倍は6月24日、神戸市内で開かれた「正論」懇話会(運営、産経新聞)に出席し、「来るべき臨時国会が終わる前に、衆参の憲法審査会に自民党の案を提出したい」と語った。「年内作成」を描いていた自民党憲法改正推進本部は作業を早めるという。

 支持率急落の安倍にとって、2018年の通常国会が改憲案発議の最後の機会だ。18年12月にせまる衆院議員任期切れ。それまでに実施される総選挙で、現勢力を維持できるとは思っていないだろう。この機を逃せば「改憲首相」とはなれない。焦る気持ちは高まるばかりだ。

 一方で、最近安倍は「30議席が減る覚悟でやるということもある。自公に日本維新の会を加えれば、改憲勢力で衆院の3分の2は維持できるのではないか」と側近に漏らしたという(『選択』7月号)。自民党の改憲案を年内に示し総選挙に打って出る―作業を早めたのは、そんな選択肢を加えるためとの見方もある。だが、都議選大敗北により、スケジュール見直しは必至だ。



 安倍が「9条1項、2項を残し、自衛隊明記。2020年改正憲法施行」を口にしたのは、5月3日。日本会議の改憲運動団体「美しい日本の憲法をつくる国民の会」が開いた公開改憲フォーラムへのビデオメッセージだった。国会で真意を問われ「自民党総裁としての発言だ。読売新聞を読め」と居直ったのは記憶に新しい。今度の発言の場は産経新聞。いずれも改憲推進団体ばかりだ。解散・改憲に向け身内の意思統一のために檄(げき)を飛ばす構図が浮かぶ。

 安倍が示した改憲案は、自民党憲法草案とも異なる。自民党内、他の改憲勢力との調整期間は数か月しかない。公明党の主張する「加憲」、日本維新の会の看板「教育無償化」、日本会議の推す「緊急事態条項」などを取り込み、改憲勢力を固める。自民党が減っても、改憲勢力3分2維持で突っ走る改憲戦略だ。

◎日本会議発の改憲戦略

 こうした改憲戦略を練っているのは、いつもの官邸ブレーンではない。シナリオライターは別にいる。

 日本会議常任理事の伊藤哲夫(日本政策研究センター代表)が月刊情報誌『明日への選択』(2016年9月号)に「『三分の二』獲得後の改憲戦略」と題する一文を書いた。同年7月の参院選で、改憲勢力が3分の2を超えた状況をとらえ、伊藤は「改憲を議論の対象とする状況は生んだが、一気に発議とはならない」とし、改憲への課題2点を示した。護憲派陣営に対する「反転攻勢」と改憲派陣営の「思考の転換」だ。

 戦争法反対運動の勢いに根強い反戦・平和意識を読み取る伊藤は、防戦一方だった事態を認め、「反転攻勢」に出るために「中国の異常とも言うべき対外行動」を前面に押し出せと言うのだ。「中国脅威」で「9条による平和」を抑え込めると主張する。

 伊藤が恐れるのは、戦争法反対運動の盛り上がりが「9条守れ」を柱に再燃することだ。いかに分断するのか。ターゲットは民進党だ。中国脅威に対抗する自衛隊の必要性を問えば、自衛隊違憲論の共産党との共闘は崩れると見る。

 その一方で、改憲側には「思考の転換」での意思統一を迫る。改憲派の主張である「占領憲法打破」から「足らずを補う加憲」に転換しろと言う。公明党におもねるだけの「加憲」ではなく、「むしろ護憲派にこちら側から揺さぶりをかけ、彼らに昨年のような大々的な『統一戦線』を容易には形成させないための積極的戦略」と位置付ける。

 安倍の発言は、伊藤の提案する「一歩退き、現行の憲法の規定は当面認めた上で、その補完に出る」という「思考の転換」を意思統一し、結集するためでもあったのだ。

改憲への対案

 安倍や日本会議がどんな戦略を立てようが、すべきことは「戦争法制廃止、9条壊すな、安倍打倒」の市民・野党共闘を拡大する以外にない。

 民進党が共闘に消極的な姿勢であったことは確かだ。だが、市民の運動が地域共闘を成立させてきた実績がある。「加憲」は「足らずを補うもの」ではない。9条に自衛隊を明記することは、9条を停止させ、国際協調による平和実現の理念を破壊するものだ。どんな戦争も「自衛」を口実に始まる。無防備地域宣言運動の経験を生かし、「軍隊を持たない国」の強さを示していかねばならない。

 稲田防衛大臣が自衛隊の政治利用を平然と口にした。都議選自民党候補を「防衛省・自衛隊、防衛大臣、自民党としてもお願いする」と訴えた。稲田の常軌を逸した発言は度重なるが、今回は歴代政権にも例のない最大級の違憲発言、違法行為。即時逮捕ものだ。憲法、国家公務員法、公職選挙法、自衛隊法―弁護士資格のある稲田が、これらの法を知らずに発言するわけがない。自衛隊の政治利用を公言したのは、治安弾圧にも海外侵略にも自在に使えるとの意識があるからだ。即刻罷免、議員辞職に値する。

 ところが、安倍は稲田発言を問題としない。つまり共犯、同罪。安倍自身の自衛隊観なのだ。「殺人集団」をこんな連中に持たせてはならない。改めて強調しよう。軍隊は国民を守らない。

 森友・加計(かけ)の疑惑まみれに加え、暴言、献金疑惑議員も続出する安倍・自民党への怒りは全国で渦巻いている。市民・野党共闘のさらなる広がりをつくり出そう。

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