2017年07月14日 1485号

【未来への責任(228) 釜石市 朝鮮人戦災犠牲者追加認定へ】

 昨年、釜石市で「艦砲戦災犠牲者特定委員会」が設置された。私たちも約20年間にわたって収集した資料を提供し、朝鮮人犠牲者の認定を求めてきた。特定委員会は「釜石艦砲戦災誌」に記載されている戦災犠牲者753名と市内民間調査による1050名との乖離(かいり)297名を主な調査対象とした。「戦災誌」にはすでに一部の朝鮮人犠牲者も記載されている。特定委員会は2016年度中しか設置されないことから、年度内に朝鮮人を含め相当数の認定が進められるものと期待された。

 しかし、今年3月27日に釜石市長が公表した調査結果では、新規認定はわずか19名。202名が証拠不足により審査保留となった。市の担当者に確認したところ、朝鮮人犠牲者は審査保留とされたことが判明した。市の情報公開条例に基づき、答申書及び3回行われた会議の議事録を開示請求した。

 議事録によると、昨年8月10日の第1回特定委員会では、市の担当者が私たちの情報提供に基づき「犠牲者特定名簿」を作成。名簿には朝鮮関係の犠牲者の名を載せており、委員会資料として提出されていたことが分かった。これ自体は大きな一歩だった。

 11月5日に行われた第2回委員会では、当会から提供した資料の説明が担当職員から行われ、「戦災誌」に載っていない朝鮮人犠牲者を審査対象に入れるかどうかが議論された。結局8名の朝鮮関係犠牲者が情報提供呼びかけ対象に入れられることになった。その際議論となったのは氏名表記をどうするか。2010年に戦災資料館ができた後、在日韓国人の方から「なんで戦災誌に載っている朝鮮人は本名じゃないんだ? 日本名みたいな恰好で載せているんだ?」と苦情が寄せられたようだ。私たちは裁判原告の肉親で本名が分かっている方についての情報も伝えており、議論の末にカッコ書きで本名を表示することになった経過だった。

 3月2日の第3回委員会では、朝鮮関係犠牲者も時間を割いて一人一人審査がされた。氏名表記の問題では「今の新しい研究で『創氏改名』というのは無いという風な考え方もあります。改名というのは、やりたい人がやっていいよというような形のものであったと」という、歴史修正主義的な意見も表明されたが、カッコ書き本名表示が維持された。一方で、製鉄所の対応が大きな争点となった。公表することで賠償問題が提起されることが懸念されるので製鉄所の了承を得なければならないというのだ。企業城下町釜石市の抱える問題が浮き彫りになった。1997年に新日鉄とは和解しているが、釜石市の市民や行政、そして製鉄所にまだまだ浸透していない現実を目の当たりにした。

 結論としては製鉄所の了解を前提にしつつ、すでに認定されている朝鮮人犠牲者で本名が分かる方は併記に修正し、追加の犠牲者も載せていくという方向性が確認された。今年は日本製鉄元徴用工裁判の和解20周年である。引き続き追加資料も提供しながら、和解解決の意義を伝え、今年中の追加認定を実現したい。(日本製鉄元徴用工裁判を支援する会 山本直好)

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