2017年07月14日 1485号

【教育に浸透する自衛隊 「安保法制」下の子どもたち 「教育に浸透する自衛隊」編集委員会編 同時代社 800円+税  周到なリクルートに抗議を】

 集団的自衛権の容認、戦争法の制定により、自衛隊の入隊希望者が減少している。そのため自衛隊のリクルート活動が活発になっている。本書は、自衛隊が学校、教育現場に浸透している実態とそれに抗する市民活動を紹介している。

 東京都教育委員会は都立高校生を対象に宿泊防災訓練を実施している。その宿泊訓練を2013年陸上自衛隊朝霞(あさか)駐屯地で都立田無工業高校が、また2014年武山駐屯地で都立大島高校が実施した。自衛隊に「防災」のプログラムはない。防災名目の「隊内生活体験」が行われたのだ。

 市民団体の都教委への抗議で、自衛隊施設での宿泊訓練は以降は実施されていない。しかし、インターンシップ名目の自衛隊施設見学や高校の宿泊訓練に自衛隊員が講話を行う例が繰り返されている。また、自衛隊が参加する東京都などの総合防災訓練に小中高校生が動員され、自衛隊車両乗車などが行われている。

 自衛隊の「隊内生活体験」は中学生の「職場体験」学習でも実施されている。「職場体験」学習は総合的学習の中で行われているが、各中学校では体験職場を確保することに躍起だ。そこに目をつけた自衛隊は、生徒送迎も行うなど至れり尽くせりで、学校にとっては都合の良い「事業所」となっている。だが、自衛隊が一般の事業所と同列であるはずがない。「職場体験」で武器を手にし戦闘用の車両に乗車する様子が生徒の笑顔とともに自衛隊のホームページに掲載された。明らかに自衛隊員募集に利用しているのである。

 歴史わい曲の育鵬社教科書をいち早く採択した横浜市では、予備自衛官の中学教員が課外学習として自衛隊の東富士演習見学を募集していた。東京都福生(ふっさ)市の中学校では米軍横田基地で「ミニブートキャンプ」と称して生徒に行進や匍匐(ほふく)前進を体験させていた。これらは「子どもの戦争への影響」を禁止した子どもの権利条約に違反している。
大阪では、維新・橋下元知事の「ご学友」で府立和泉高校の民間人校長となった中原徹が強引に「国防教育」を持ち込んだ。生徒を自衛隊内生活体験に参加させ、校長自ら「平和と国防を考える」という講義をした(その中原は後に府教育長となりパワハラで辞職に追い込まれた)。

 大阪でも「防災」を口実とした自衛官による学校講演が頻繁に開かれている。元自衛官で府立狭山高校長となった竹本三保は「国を支える柱は『国防』と『教育』」と主張。自衛官の講演会を行い、自らも広告塔として講演活動する。

 本来であれば教育現場で阻止されるべきこうした自衛隊の教育への浸透。それを許しているところに現在の教育現場の劣化が表れている。市民運動などの抗議によって阻止することが求められている、と本書は指摘する。     (N)
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