2017年07月14日 1485号

【責任を果たしていれば事故は起きなかった/福島原発刑事訴訟 初公判/津波対策先送りの責任を問う】

 史上最悪の放射能大量放出犯罪を引き起こした巨悪を裁く。東京電力の旧経営陣3人を被告とする福島第一原発事故の刑事訴訟がいよいよ始まった。

 6月30日午前7時半、東京地裁入り口には長い列ができた。初公判に使われたのは、同地裁で最も広い104号法廷。しかし、98ある傍聴席の半分は司法記者クラブ加盟社に割り当てられ、一般向けは54席しかない。しかも、傍聴抽選券の配布は、福島の告訴人たちがバスで朝4時に出発しても間に合わない8時20分に締め切り。それでも、歴史的な裁判の開始をこの目で確かめたいと希望する人は700人を超えた。

 福島原発刑事訴訟支援団と福島原発告訴団は、10時開廷の公判を傍聴できなかった人たちのために、並行して参院議員会館で集会を開催。17時の公判終了後には、記者会見を兼ねて報告集会をもった。

 刑事訴訟支援団の佐藤和良団長は、楢葉町で津波に遭った叔母の捜索が避難指示によりできず、5月連休明けにようやく遺体と対面したことを明かしながら、「一人ひとりそれぞれの思い、それぞれの7年間があった。全国1万4千人以上の告訴・告発人の力が集って、きょうの強制起訴初公判に実を結んだ。第一歩を踏み出した」と語る。

 傍聴した郡山市在住の人見やよいさんは「きょう一日聞いただけでも“勝ったな”と思った」、同じく蛇石(へびいし)郁子さんは「証拠は数も中身も勝負にならない。絶対、絶対、絶対、負けるわけにいかない」と感想を話した。

 検察官役の指定弁護士による冒頭陳述と証拠提示につい解説したのは、海渡雄一弁護士。「決定的に重要な点は、最大15・7bの津波高さが単なる“試算”ではなく、耐震バックチェックの最終報告で基準津波を決めるための基礎資料となったものであること」と指摘する。示された証拠の中にも、この高さを想定した防潮堤設置など津波対策の検討が東電内で進められていたことを裏付ける数多くのメールがあるという。「証拠を集めたのは検察庁だが、それを分析してきちんとした資料にまとめたのは検察審査会の審査員であり、検察官役の弁護士。よくやってくれた。事故で被害に遭った方の敵(かたき)がようやくとれる。その出発点に立った」

 冒頭陳述は「被告人らは何ら具体的措置を講じず、漫然と原発の運転を継続した。被告人らが費用と労力を惜しまず、課せられた義務と責任を適切に果たしていれば、深刻な事故は起きなかった」と結んでいる。報告集会も、告訴団・武藤類子団長の「被告人が津波対策をきちんと実施していれば、悲劇は起きなかった。公正な裁判が行われるよう、しっかりとこの裁判を見つめ支援していこう」との呼びかけで締めくくられた。

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