2017年07月21日 1486号

【改憲の釣り餌≠ノ「授業料無償化」/自民・維新の姑息なやり口】

  「教育無償化」を、いわばエサ≠ノ世論を改憲に誘導する動きが執拗に続いている。

 安倍首相は読売新聞インタビュー(5/3)で「憲法において国の未来像を議論する上で、教育は極めて重要なテーマだ」とし、日本維新の会改憲草案の教育無償化を「維新の積極的な提案を歓迎する」と持ち上げた。続いて5月25日、自民党船田議員は「憲法26条の教育を受ける権利では『その能力に応じて、ひとしく教育を受ける権利』があると規定している。『経済的理由を問わず』との文言を憲法に盛り込むことは十分に検討に値する」と述べ「教育の無償化のために憲法改正は必要なく、法律で済むという指摘もあるが、無償化を明記することによって、政府に実現を促す大きな力になると期待される」と安倍に続いて維新主張に賛意を示した(衆院憲法審査会議事録)。

改憲の必要はない

 自民党・維新の教育無償化論は改憲のための姑息(こそく)な主張だ。

 第26条第1項は「すべて国民は、法律の定めるところにより、その能力に応じて、ひとしく教育を受ける権利を有する」と定める。憲法第26条の「ひとしく教育を受ける権利」の要件は「能力」だけであり、その他の一切の要件を書き込んでいない。もともと「経済的理由」を問うていないのだから書き込む必要はない。しかも「法律の定めるところにより」となっている。よって「経済的理由を問わず」と書き足したところで権利保障は法律次第だ。そのことが分かっているから「期待される」と述べるにとどめている。結果を保証しない、安倍の言う印象操作≠セ。

高校授業料無償化すら後退

 なにより信用できないのは「教育無償化」を妨害したのは安倍政権自身だからだ。

 日本も批准(1979年)している国連人権規約(A規約)は第13条2項(a)で初等教育の義務化と無償化を規定し、(b)で中等教育・高等教育の漸進(ぜんしん)的=段階的な無償化を定める。歴代自民党政権は(b)の留保を続けてきた。2010年、民主党政権時代に高等学校(後期中等教育)の実質無償化を実現し、12年9月、政府はこの留保を撤回した。

 ところが、無償化を「金持ちへのばらまき」だと批判した安倍は、政権を奪還すると所得制限を設けた。維新もこの法案に賛成している。

 これは二重の意味で誤っている。

 まず、憲法第98条は締結した条約を誠実に遵守(じゅんしゅ)するよう求めている。いったん留保を撤回した条約に則った政策を後退させるのは同条違反だ。

 次に、授業料無償化は金持ちの親へのばらまきではない。教育を受ける権利を社会的に保障するものであり、その主体は子どもたちだ。「義務教育は卒業させた。高校は自分の選択で通うのだから学費は自分で稼いで支払え」と子に迫る親は現にいる。制度上も公立高校の授業料は、施設利用料%凾フ名目で受益者負担として徴収されており、支払い義務は第一義的には生徒が負わされている。

 権利保障の主体を政府ではなく「自助」として家庭に負わせる新自由主義的政策の安倍政権だから、授業料無償化=「ばらまき」と決めつけるのだ。

政策転換で無償化を

 憲法規定をどう変えようと、新自由主義政策をとる限り、子どもがひとしく教育を受ける権利は保障されない。

 自民・維新は自ら「教育の漸進的無償化」を後退させる政策をとりながら、「憲法に書き込めば、無償化できる」かのような言説で国民を改憲へと誘導しようとしている。9条改憲≠フ狙いを隠すためのデマだ。

 OECD(経済協力開発機構)加盟国の半数が大学授業料を無償とし、有償の国々も給付型奨学金を創設している。両方とも実現していないのは一貫して日本だけだった(http://www.jcp.or.jp/web_jcp/html/data/oecd34.pdf)。今年度ようやく給付型が「先行」として導入されたが、対象はわずか約2650人(大学・短大生の0・1%)だ。

 「教育を受ける権利」を社会的に保障する政策転換で、授業料は今すぐにでも無償化できる。

主なOECD(経済開発協力機構)加盟国の国公立大学授業料および奨学金の状況

大学授業料無償・給付型奨学金あり
スウェーデン/ノルウェー/フィンランド/スロバキア/フランス/ポーランド/スロベニア/オーストリア/ドイツ/エストニア/デンマーク/ギリシャ/チェコ/トルコ

大学授業料無償・給付型奨学金なし
アイスランド

大学授業料有償・給付型奨学金あり
/アメリカ/イギリス/スペイン/ニュージーランド/ベルギー/ポルトガル/イスラエル/スイス/オーストラリア/カナダ/メキシコ/イタリア/韓国

大学授業料有償・給付型奨学金なし
日本

(2015年現在)
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