2017年07月21日 1486号

【福島原発刑事訴訟 公判開始 東電強制起訴裁判の争点 津波対策先送りは有罪だ】

 東京電力の旧経営陣3名(勝俣恒久元会長、武藤栄、武黒一郎両元副社長)が検察審査会の起訴議決(注)によって強制起訴されてから1年4か月。福島原発事故での3被告の責任を問う刑事裁判の初公判が6月30日、東京地裁で開かれた。この裁判の争点と意義を広げ、法廷と運動を結んで有罪判決を勝ち取らなければならない。

予見と結果回避可能性

 3被告の起訴理由は、津波対策を取らなかったことによって福島原発事故を引き起こし、強制避難者らを死亡・負傷させた業務上過失致死傷罪。事故を予見することができたかどうか(予見可能性)、3被告が対策を講じることによって事故を防ぐことができたかどうか(結果回避可能性)が最大の争点だ。

 三陸沖で発生する可能性のある地震について、政府の地震調査研究推進本部(推本)は2002年に長期評価を行っている。この長期評価を基に、明治三陸地震等と同規模の地震が発生した場合の影響について、東電設計が東電に行った報告書(2008年3月)は、福島第1原発に15・7メートルの津波が到達する恐れがあることを明らかにしている。

 東電社内でも「土木調査グループ」社員らが、10メートルを超える津波が到達した場合、非常用電源装置が水没、全電源喪失となることを指摘した。武藤、武黒両被告にも2008年6〜8月にかけ相次いで報告、津波対策を講じるべきと意見を述べた。だが武藤被告はこの意見を採用せず津波対策を先送りした。

 以上が、起訴議決時の議決書及び初公判での指定弁護士による冒頭陳述が指摘した事実である。これらの事実から、予見可能性は争う余地なくあったと断定できる。冒頭陳述のまとめは、「被告人らが、費用と労力を惜しまず、課せられた義務と責任を適切に果たしていれば、本件のような深刻な事故は起きなかった」と断じている。

 初公判で、3被告は事故を予見できなかったとして無罪を主張したが、そこには一片の道理も誠意もない。

 裁判はまた、結果回避可能性をめぐって争われることになる。交通事故の裁判では、加害者が事故の危険性を知りながら、一時停止や減速など当然行うべき義務を果たさなかった場合に有罪とした裁判例もある。事故の具体的な危険性を歴代社長らが認識していたかどうか解明できなかったJR福知山線事故の裁判と比べ、指定弁護士側に有利な証拠がそろっている。


主権者の思いに応える

 強制起訴制度創設に関わった四宮啓(さとる)・国学院大教授は「これまで検察が独占していた起訴の判断に、国民の意見を取り入れようとするもの」とその意義を強調する。過去には国家機関である検察が不起訴の判断を恣意的に行い、重大な企業・権力犯罪が闇に葬られてきた。今回の裁判で、指定弁護士は全証拠を開示する方針だ。東電の責任追及、事故原因究明、再発防止が大きく進むことが期待される。

 最大の被害者である福島県民は「東電は自分を加害者とも思っていない」との思いを今も持つ。福島原発告訴団が東電の告訴・告発に踏み切ったのは、東電に加害者であることを自覚させ、賠償・除染・避難などの責任を果たさせたいという強い思いがある。そうした思いを踏みにじり、東電への強制捜査も行わないまま、不起訴で原発事故を免責にしようとした政府・検察との闘いでもある。

 そもそも法律は「国民の厳粛な信託」(憲法前文)によって作られるものだ。主権者である国民の利益になるように法を運用するのは民主主義国家の当然の責務である。検察の不起訴を乗り越え有罪を勝ち取ることができれば、権力による主権者の意思に背いた法の運用を阻止する画期的な前例となる。

 この裁判は、憲法破壊の暴走を続ける安倍政権に打撃を与え、法の支配、立憲主義を取り戻す重大な闘いとしての意義を持つ。だからこそ全力でこの裁判を支援し、有罪を勝ち取らなければならない。

あくまで東電守る検察

 今回の裁判では、裁判所に指定された弁護士(指定弁護士)が検事の役割を務める。一方、3被告の弁護側には元福岡高検検事長ら「ヤメ検」(元検事)弁護士が並ぶ。巨大な企業犯罪を不起訴で免罪にした検察は、裁判でも徹底的に加害企業・東電を守ろうとしている。その姿勢にはだれもが怒りと闘志を持つ。市民による正義を葬り、不正義を助長する政府・検察に絶対に負けるわけにいかない。

(注)起訴議決制度 検察官が不起訴とした事件について、検察審査会が二度「起訴相当」の議決をすると、被申立人が強制起訴される制度。2009年の検察審査会法改正で創設され、JR福知山線脱線事故などの例がある。

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