2017年07月21日 1486号

【厚労省の労働時間「上限」建議 これでは過労死推進だ 残業代ゼロ法と一本化許すな】

 厚生労働省の労働政策審議会(労働条件分科会)は6月5日、政府の「働き方改革実行計画」に盛り込まれた労働時間上限規制の法制化を塩崎厚労相に建議した。

 その主な内容は次の通り。

 時間外労働の上限規制は、原則として月45時間、かつ年間360時間とする。特例として、労使協定を結べば年間720時間とすることができる。その場合の条件は、(1)休日労働を含み2か月ないし6か月平均で80時間以内(2)休日労働を含み単月で100時間未満、(3)原則である月45時間の時間外労働を上回る回数は年6回まで、というものだ。

 労働基準法第36条に規定される労使協定の時間外労働時間には、法定休日(1週1日、または4週4日)の労働時間は含まれない。つまり、建議のいう720時間には、法定休日労働時間は含まれない。

時間外労働年960時間も

 建議の内容で、どのような時間外労働をさせることが可能になるのか。一例を示そう。

 特例月(6か月)は、時間外労働75時間+休日労働5時間、通常月(6か月)は、時間外労働45時間+休日労働35時間、毎月80時間の時間外労働を通年的にさせることができる。これで36(サブロク)協定上は、年間720時間となり、240時間の休日労働とあわせて年間の時間外労働は960時間労働となる。過労死ラインである月80時間の時間外労働を容認したのが建議だ。それを推進してきたのは安倍首相と官邸である。

 長時間労働が深刻な自動車運転業務、建設業、医師については、法施行後5年間も上限規制を適用せず、その後も自動車運転業務は時間外労働だけで年間960時間まで認めるなど他の業種より長い上限にした。研究開発業務については、月100時間を超えた場合に医師の面接指導を義務付けただけで、現在に引き続き適用除外とした

 勤務終了から次の勤務まで一定の休息時間を確保する「勤務間インターバル」は「努力義務」にとどめ、確保すべき時間数も示さなかった。

 過労死ラインの上限規制の元になったのは、3月13日、経団連と連合が取り交わした「時間外労働の上限規制等に関する労使合意」である。「労使合意」は安倍首相に報告された後、「働き方改革実行計画」に盛り込まれた。

一括法案化を狙う政府

 厚労省は建議を受けて、8月下旬にも法案要綱を労政審に諮問、秋の臨時国会に提出する構えだ。安倍政権が国会に提出中の「残業代ゼロ法案」と一括にし、「残業代ゼロ」にも野党が反対しにくくさせることも狙っている。

 政府の「働き方改革実行計画」には、「高度プロフェッショナル制度(残業代ゼロ法案)の創設や企画業務型裁量労働制の見直しなどの…法改正について、国会での早期成立を図る」とある。連合の会長も計画を作った委員であり、合意していることになる。

 6月2日の衆院厚生労働委では、民進党長妻議員が「残業代ゼロ法案」について「働き方改革」関連法案と共に一括法案として臨時国会に出すのではないか、と塩崎厚労相にただした。しかし、塩崎は質問をかわしつづけ、一括法案化の狙いが現実のものであることが明らかになった。

安倍と連合幹部の企み

 4月3日、連合の逢見(おうみ)直人事務局長は、「『働き方改革実行計画』についての談話」で、「長時間労働の是正については3月の労使合意に基づき、罰則付き時間外労働規制の導入という、労基法70年の歴史の中での大改革に至った」と自画自賛。5月末、地方連合の事務局長を集めた場で、「高度プロ・裁量労働制に反対といった意思表示を行わないように」と指示を出し、修正要求に転ずることを匂わしたと言われる。

 この逢見事務局長は、連合副会長であった2015年、秘密裏に首相公邸で約2時間安倍首相と会談。「今後も定期的に意見交換することで一致した」としている。また昨年11月30日には、自民党茂木政調会長らと会談し、茂木は「現段階で連合の政策に最も近いのは自民党ではないかと自負している」と述べた。逢見も「方向性はそんなに違っていない」と語っている。この人物が10月には連合会長になるとされているのである。

 安倍政権と連合幹部による「残業代ゼロ法案」と「過労死推進時間法制」一括法案化を阻止しなければならない。どちらの法案も労働者を死に追いやる危険なものであることを広く暴こう。

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