2017年07月21日 1486号

【都議選 自民惨敗と安倍演説/「やめろ」コールに逆上、本音が出た/「こんな人たち」を狙う共謀罪】

 自民党が惨敗を喫した東京都議選。安倍晋三首相が応援演説で発した一言が物議を醸している。聴衆の「安倍やめろ」コールに逆上し、「こんな人たちに負けるわけにはいかない」と言い放ったのだ。これではっきりした。安倍首相は自分に逆らう者を「一般人」とみていない。その取り締まりのために「共謀罪」法を作ったのである。

安倍が負けた選挙

 選挙戦最終日の7月1日。安倍首相が初めて街頭演説の場に立った。選んだ場所はJR秋葉原駅前。「日の丸」を持った支援者が毎回集結する、安倍にとってのホームである。だが、この日は勝手が違った。共謀罪などに反対してきた市民らが「安倍やめろ」の大合唱を浴びせたのだ。

 騒然となる駅前広場。「帰れ」「やめろ」コールは勢いを増し、通りがかりの人たちにも広がっていった。すると安倍は連呼している一団を指さし、声を荒げて批判し始めた。「演説の邪魔をするような行為を、私たち自民党は絶対にしません。憎悪や誹謗中傷からは何も生まれない。こんな人たちに私たちは負けるわけにはいかない」

 「お前が言うな」と言うほかない。都合の悪い国会質問に口汚い野次を飛ばしたり、野党議員に恫喝まがいの発言をくり返してきたのは誰なのか。安倍首相その人ではないか。これらの振る舞いに示されるように、安倍は敵とみなした者、すなわち「こんな人たち」に対してはやたらと攻撃的だ。異論や批判には一切耳を貸さず、数の力で押し切ろうとする。

 一方、「身内」に対してはとことん甘い。「腹心の友」のビジネスを手助けするために、「総理のご意向」で行政を歪める。「ともちん」と呼ぶお気に入り(稲田朋美防衛相)なら、憲法違反の発言を連発してもかばい続ける…。主権在民を無視し、国政を私物化するアベ政治。その姿を「こんな人たち」発言は見事に可視化した。

 東京新聞編集局のツイートによると、「かなり離れた場所で、黙って演説を聞いていたお年寄り」が、「こんな人ってなんだ。都民だ、国民だよ」と震えながら声を上げていたという。安倍の秋葉原演説が都議選における自民惨敗の決定打となったことは間違いない。自民党幹部が語るように、「この選挙は安倍総理が負けた選挙」(7/3TBSニュース)なのだ。

批判者には弾圧法

 秋葉原での演説で、安倍は自分を批判する者を「こんな人たち」という言葉でくくり、それに「私たち」という言葉を対抗させた。「日の丸」の小旗を振る自分の支持者だけが「私たち=日本国民」であって、「オレ様の演説を妨害するような不逞(ふてい)の輩(やから)は非国民だ」と思っているのだろう。

 共謀罪法案の国会答弁を思い出す。安倍や金田勝年法相は「一般の人は捜査対象にならない」と連呼した。連中が言う「一般の人」に、安倍政権に盾突く「こんな人たち」は含まれていない。7月11日施行の共謀罪法は「こんな人たち」を取り締まるための弾圧法だったのだ。

 実際、自分たちに従わない者を「民主主義の敵=テロリスト」よばわりする姿勢において自民党は一貫している。たとえば、「総理の演説を邪魔した者をテロ等準備罪で逮捕すべし」という内容のフェイスブックの投稿に、同党の工藤彰三衆院議員は賛同の「いいね!」を押していた。

 工藤議員は愛知4区選出の2期目。不祥事続きの「魔の2回生議員」である。日本会議国会議員懇談会にも所属している。「またまた安倍チルドレンの失態か」と甘く見てはならない。親分の安倍自身が「こんな人たち=選挙妨害の左翼活動家」と叩くフェイスブックの投稿(投稿主は自民党の永田壮一・千代田区議)に、「いいね!」で応じているからである。

やめろコールは続く

 菅義偉官房長官も安倍演説を「きわめて常識的な発言」と擁護。「悪いのは選挙妨害をした側だ」という印象操作に励んでいる。今は安倍の批判勢力としてふるまっている石破茂(前地方創生担当相)にしても、かつて特定秘密保護法に反対する国会デモを非難し、「単なる絶叫戦術はテロ行為とその本質においてあまり変わらない」とブログに書いたことがある。

 しょせん自民党はこんな奴らの集まりだ。民主主義を理解せず、反対意見を力で封じ込めることしか考えていない。こういう連中が共謀罪を手にしたのだから本当に恐ろしい。危険な刃物を一日も早く取り上げねばならない。

   *  *  *

 都議選惨敗の原因を安倍首相周辺は「長期政権の緩み」と分析しているようだ。内閣改造で人心を一新すれば、支持率は上向くとの打算があるのかもしれない。だとすれば、勘違いもはなはだしい。

 都議選惨敗の根底にあるのは、憲法無視・民主主義否定のアベ政治に対する人びとの怒りだ。うわべだけの反省はもはや通用しない。安倍が政権にしがみつく限り、「やめろ」コールが鳴りやむことはないのである。   (M)



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