2017年07月28日 1487号

【ドクター 科学的医療の大きな勝利】

 6月にWHO(世界保健機関)が発表した重要な薬品リスト改訂で、これまでほとんどのインフルエンザ患者に使うとされていたタミフルなどが、重症患者に限るとされました。これは、抗インフルエンザ薬はほぼ不要とした歴史的な変更です。

 このニュースを伝えた英国医師会雑誌BMJの編集長は「科学的医療への闘いの大きな勝利」と述べています。WHOの決定は、医問研仲間の要請により日本小児科学会が2014年12月にこっそり出した見解と似ています。どちらの見解も、巨大製薬会社に対する科学的医療のための闘いで得た研究成果の影響です。


 2009年新型インフルエンザ大流行を利用して、製薬企業はもとより世界中の政府・国際機関・学会は抗インフルエンザ薬を推奨しました。しかも、科学的医療の砦である世界的研究団体コクランも、備蓄や臨床使用の根拠―入院や肺炎を防ぐ=\としていたのです。タミフルの効果と副作用に疑問を持っていた私はコクランの研究を再検討しました。日本の嘘つき論文に慣れていたためか、比較的簡単にこの研究の問題点に気づきました。そこで、コクランに、タミフルの製造販売企業ロシュ社から利益を受けている著者達の怪しい論文が使われていて信頼できない、などのメールを送ったのは同年7月でした。

 コクランはまじめな批判を拒否しません。この研究の中心人物T・ジェファーソンは「誰にも批判されたことがない私が、どこの誰か分からない林に批判された」と研究の再検討を開始しました。製薬企業のまとめた結果が信用できないということは、研究の元々のデータの公開を求めることです。ロシュ社は公開を拒否。コクラン、BMJ、英BBCなどが4年以上ものデータ開示運動で公開させ、科学的医療の「革命的」前進(B・ゴールドエイカー)を勝ち取りました。そのデータを使って、日本の浜六郎氏も参加して得たコクランの科学的結論がWHOや日本小児科学会の見解を引き出したのです。

 私は、問題の指摘はしたものの、コクランがした何万ページに及ぶ資料の分析はとてもできません。まじめな専門家の力で実現した成果でした。世界的な科学者と運動側が力を合わせることが、巨大製薬企業に立ち向かうために有効です。日本のマスコミは世界的権威の見解がないと、大企業批判を掲載できにくくなっているようです。

 医問研による福島事故後に赤ちゃんの死亡(周産期死亡)が増えたとの分析をドイツの科学者との連携で論文にでき、マスコミにも取り上げられたのも、タミフルでの経験を生かしたためと思っています。今回の快挙をてこに、海外と連携した研究を一層進めようと考えています。

     (筆者は小児科医)
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