2017年08月04日 1488号

【人手不足はアベノミクス効果? 非正規増でなく最賃引き上げを】

 最新の有効求人倍率(企業の求人数を仕事を求める求職者数で割った比率、1を超えると人手不足を示す)が1・49倍となった。バブル期を超えたとマスコミは強調する。たしかに人手不足感は高まっており、コンビニではアルバイトも集まらないという。

 こうした状況を、安倍首相は、雇用が110万人増えた、アベノミクスの成果だと誇るが、全く生活実感と合わない。実体経済が低迷しているのに雇用が改善することはあるのか。人手不足といわれながら賃金が上がらない現実もある。人手不足の深層は何か。

すすむ雇用の劣化

 2年前の自民党立党60年記念式典で安倍首相は「高知県は初めて有効求人倍率が1倍に到達した。おめでとうございます。県庁で祝杯を挙げたそうだ」と語った。高知県が1倍に達したことの内容を安倍は理解していない。高知県では求人倍率の分母となる求職数が減り続けており、分子に当たる求人数がそれ以上減らなければ求人倍率は高くなる。しかも、求職者が県外に出ている現実をみれば、単純に喜べる内容ではない。

 全就業者数の推移をみると、リーマンショックの2008年から減少し、13年から増加に転じた。増加傾向を示す時期がアベノミクス第1ステージと重なるため、アベノミクスが成功しているかのように宣伝される。だが、延べ就業時間をみると、08年以前から減少傾向が続き、その後もほぼ横ばい状態にある。就業者数が増えているのに、なぜ延べ就業時間は横ばいなのか。

 総務省「労働力調査」の就業者とは、調査期間中に1時間以上働いた人で、短時間労働のパートやアルバイトも含まれている。就業者数の増加は短時間労働者の増加によるところが大であり、だからこそ就業時間が伸びないのだ。

 厚生労働省「職業安定業務統計」で有効求職者数をみると、09年から16年まで連続して減少している。求人が増えているのもかかわらず、仕事を探す人が少なくなっている。この原因は、15歳から65歳未満の生産年齢人口が減ったためである。

 さらに職業別にみると深刻な問題が浮かび上がる。求職希望が多い事務的職業の求人倍率は0・39(5月)であり、その中でも一般事務職は0・3しかない。一方、介護サービスの職業3・21、接客・給仕の職業3・56、保安の仕事6・21となっている(図1)。劣悪で過酷な労働条件の職業にはなかなか人が集まらない。このように、職業によるばらつきが大きいのである。


生活できる賃金こそ必要

 大卒求人倍率をみてみよう。来年卒業予定者で1・78倍となっており、「超売り手市場」といわれている。だが、企業の規模別ではそうとはいえない面が明らかになる。

 従業員規模300人未満では6・45倍であるのに対し、1000〜4999人では1・02倍、5000人以上となると0・39倍。誰もが希望する大手企業は「超狭き門」となっている。ここでもマスコミが報じる内容と実際との乖離(かいり)が大きい。

 特徴的なのは65歳以上の雇用が増えていることだ。総務省「労働力調査」によれば、16年の高齢者の就業者数は13年連続の増加で770万人と過去最多となっており、就業率は男性が30・8%、女性が15・8%である。そして、高齢雇用者の75・4%が非正規雇用である(図2、図3)。

 

 65歳を超えても働くことの理由に「家計の補助・学費等を得たいから」が20・1%を占める。待機児童問題は女性の求職が高まっていることを示すが、ここにも家計の補助など経済的理由が横たわっている。国民の収入が増えずに減っていることが実体経済低迷の大きな要因であり、求人・求職の実態はこのことも明らかにしてくれる。

 安倍首相はこの現実に目を向けることなく、表面上の都合のいい数字だけを取り上げる。安倍応援団は、非正規雇用の増加であっても雇用が増えているのだからアベノミクスの成果だ、という理屈を述べる。だが、少子高齢化による生産年齢人口の減少が求人倍率を高くし、劣悪な労働条件の仕事が高い求人倍率にあるなど横たわる問題は深刻だ。

 雇用の安定は生活の安定につながる。希望すれば働き続けられる条件整備は本来労使にとって必要なものだ。同時に、生活の安定には賃金の引き上げが不可欠となる。非正規雇用ではなく正規雇用の拡大を求めるととも、少なくとも生活を維持できるだけの最低賃金大幅引き上げが最優先されなければならない。
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