2017年08月04日 1488号

【ソウル市の労働政策に学ぶ/奨学金連絡会がシンポジウム/非正規のない「労働尊重都市」】

 韓国ソウル市では2011年10月に朴元淳(パクウォンスン)市長が就任して以降、「希望の約束」実現を掲げて格差是正・貧困克服の諸政策が進められている。その柱が「労働政策」だ。ソウル市の労働政策から何を学ぶのか。7月16日、都内でシンポジウムが開かれた。

 「教育の機会均等を作る『奨学金』を考える連絡会」が、貧困問題を解決する上で自治体はどんな役割を果たせるかを考える機会に、と企画した。

 講演は、労働者派遣法に85年制定当時から一貫して反対し、その後韓国の非正規労働問題にも関心を広げてきた元龍谷大学の脇田滋さん。本論に入る前に「なぜ国ではなく都市(自治体)の労働政策なのか」と問題提起し、「都市住民の多くは働いて生活する労働者。その中でも非正規職の問題は格差の大きな背景になっている。“88万ウォン世代(月収約8万円しかない世代)”“三放世代(恋愛・結婚・出産を放棄した世代)”と言われ、若者は将来に希望がない。この深刻な状況を打開するために都市としての労働政策が必要になってくる」と述べた。

 脇田さんは続ける。「朴元淳市長は当選後すぐ、二つのことを実行した。一つはソウル市立大学の授業料半額化。もう一つは非正規職の正規職転換。ソウル市傘下の機関が契約で雇っている非正規労働者のうち、まず常時業務の1054名を12年5月に正規化した。清掃や警備など約6千名の間接雇用労働者も直接雇用に。13年1月には『非正規職の無期契約転換および労働環境改善』条例案が市議会に提出された」

 非正規の正規化は17年1月までの5年間で8830人を数える。対象となった労働者からは「いちいち出入り証を示さないでも庁舎に入れるようになった」「シャワー室ができ、ゴミと汗のにおいで地下鉄に乗るのに恥ずかしい思いをしなくて済む」といった声が寄せられている。正規職転換とは人間らしい働き方への転換である。

労働者の生命最優先

 15年4月に発表された「労働政策基本計画」。政策ビジョンに「労働尊重都市ソウル」を強く打ち出し、4大政策課題として「立場の弱い労働者の権利・利益保護」「労働基本権の保障と基盤構築」「雇用の質の改善」「共生と協力の労使関係構築」をあげている。地下鉄ホームドアを修理していた19歳の下請け労働者の死亡事故(16年5月)を受けて策定された「労働革新対策」では、「労働者の生命・安全の最優先」が政策分野の中心に据えられた。

 新市長就任後、以前の市長時代に解雇された労働者34人が復職し、13の事業場で労働組合が設立され、6752人が新たに労働組合に加入した。脇田さんは「朴元淳市政は労働を尊重する姿勢に貫かれている。非正規や女性、高齢者など最も弱い層の労働者に眼を注ぐ。組合員だけではなく、労働者全体を代表しようとする組織を行政として支援する。この政策は文在寅(ムンジェイン)政権にも受け入れられると期待している」と締めくくった。

 質疑では、「日本との違いは何か」「リーマン・ショック後のストライキ日数は日本は韓国の80分の1。企業別組合のなれの果てだ。同じベルトコンベアで働いていた仲間である非正規労働者を大企業労組は見捨てた。資本と闘うにはヨーロッパのように産業別化し、階級的な組合にしなければならない」など示唆に富む応答が交わされた。

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