2017年08月04日 1488号

【稲田朋美という問題/「ともちん」のピンチをかばう安倍首相/国政私物化を象徴する寵愛】

 稲田朋美防衛相に新たな疑惑が浮上した。南スーダンPKO部隊の日報問題について、保管の事実を隠ぺいする方針を了承していたというのだ。稲田は国会でも虚偽の説明をしていたことになり、常識的には即刻辞任か更迭となるはずだ。だが、安倍晋三首相は例によって稲田をかばい続けている。この寵愛(ちょうあい)ぶりは何なのか。

隠ぺい方針を了承

 共同通信によると、南スーダンPKO(国連平和維持活動)部隊の日報を廃棄したとしながら陸上自衛隊が保管していた問題で、稲田防衛相は保管の事実を「非公表」とする方針を防衛省の幹部から伝えられ了承していたという。複数の政府関係者が7月18日、明らかにした。

 日報問題の対応を協議する緊急会議が行われたのは2月15日のことだ。稲田や防衛事務次官、官房長、陸上幕僚長らが出席。その席で「陸自にあったデータは隊員個人が収集したもので公文書にはあたらない」、よって「公表の必要なし」と決まった。稲田は異議を唱えなかった。隠ぺいを了承したということだ。

 この日報は南スーダンの首都で大規模な「戦闘」が発生し、PKO参加の前提(5原則)が崩れたことを証明する重要な文書である。そうした「現場の声」を防衛省・自衛隊上層部は闇に葬ろうとした。撤退を求める世論が高まることを恐れたのだ。

 稲田は隠ぺい謀議に加わりながら、国会では「報告は受けていない」と言い張ってきた。明らかに虚偽答弁である。「改めるべき隠ぺい体質があれば私の責任で改善したい」とも言っていた。面(つら)の皮の厚さも相当なものである。

 しかも、この問題を調査する特別防衛監察に対し、陸自側は「稲田大臣への報告・了承」を説明していたが、監察結果の原案ではそれが無視されていた(7/21毎日)。防衛監察本部は防衛相の直轄機関である。稲田擁護の意図が働いたことは明らかだ。

 注目すべきは、共同通信や毎日新聞の情報源が「政府関係者」であることだ。安倍首相が稲田をかばい続けることへの不満が渦巻いている証拠である。「陸自だけが悪者にされてはたまらない」「稲田に責任をとらさねば政権が持たない」というわけだ。


問題発言のデパート

 身内からも総スカン状態の稲田だが、彼女の虚言と卑劣なごまかしは今に始まった話ではない。逐一あげれば紙面が足りなくなるので、ここでは3件に絞ってみていこう。

 南スーダンのPKO問題では、「憲法9条上の問題になるので『戦闘』ではなく『武力衝突』という言葉を使っている」と答弁した(2/8衆院予算委員会)。こんな詭弁が通用するなら、憲法上の制約は意味をなさなくなる。弁護士として活動していた人物の発言とは思えない。

 森友学園との関係も一貫して否定し続けたが、森友の裁判に代理人として出廷していた記録が暴かれ、謝罪に追い込まれた。その際の言い訳がすさまじい。いわく「私の記憶にもとづいた答弁であり、虚偽の答弁をしたという認識はない」。日報問題でもこう言うつもりなのだ。

 そして、東京都議選における自民惨敗を決定づけた発言である。自民党候補への応援演説で「防衛省、自衛隊、防衛大臣、自民党としてもお願いしたい」と訴えたのだ(6/27)。公務員の地位利用を禁じた公職選挙法違反は明らかだが、稲田は「誤解」という言葉を連発して釈明した。あくまでも「自分は悪くない」と言いたいらしい。

 このほかにも、夫名義で多数の防衛関連企業株式を所有していたり、国会答弁で「教育勅語」を肯定したり、大臣の資質に疑問を抱かせる事例は枚挙にいとまがない。こんな人物を重要ポストに起用してきた安倍首相の責任が問われているのである。

内閣改造でごまかすな

 自民党の村上誠一郎元行政改革担当相は「安倍さんの人事は、お友達か、同じ思想を持っている人か、イエスマンかの3つのパターンだ」と指摘する。稲田はこの3パターンにすべて該当する。

 売り出し中の右派論客だった稲田を政治家にスカウトしたのは安倍である。「安倍さんは稲田さんの弁舌に一目ぼれした。女性の保守という点も珍しいと評価していた」(側近議員)。その期待に応えるように、安倍流の極右思想や歴史修正主義を全開する稲田を、安倍は「ともちん」と呼んで可愛がった。

 経験の浅い稲田が要職を歴任できたのは、「女性議員の星にしたい」という安倍の引き立てがあればこそだ。稲田自身、「安倍さんがいなかったら私は政治家になっていません。思想信条はほとんど一緒」(「週刊文春」15年10月15日号)と認めている。

 政治家失格が明らかになった今となっては、「将来の女性首相候補」という御用メディアの稲田評がむなしく響く。安倍政権が掲げる「女性の活躍」とは、“女が出世したければ男の権力者に媚びを売れ”ということだったのだ。稲田問題は安倍一派による国政私物化の象徴である。内閣改造で安倍の責任をうやむやにさせてはならない。 (M)

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