2017年08月18・25日 1490号

【武力とカネで権益拡大/1%≠フための改憲論】

 安倍首相は8月3日、内閣改造後の記者会見で、今秋臨時国会原案提出→2020年9条改憲施行を目指すとしていた改憲日程について「スケジュールありきではない」と前言を翻した。内閣支持率急落がその理由だ。

 加計(かけ)学園問題では国家戦略特区が規制緩和による富裕層への利益供与の手段であることが、自衛隊日報隠蔽(ぺい)問題では自衛隊海外派兵がなりふり構わぬ戦争政策であることが明らかになった。安倍の政治路線=新自由主義政策の下劣さがあぶりだされた結果の支持率急落だ。

 批判が改憲に及ぶことを恐れた安倍は、内閣改造と改憲スケジュール先送り表明で沈静化を図ろうとしている。安倍が悲願とする改憲は、支持率急落の原因である新自由主義政策の究極の姿だからだ。

 以下、自民党党内討議中の改憲案と安倍補完勢力、日本維新の会改憲案を見ていく。

穴だらけの改憲論

 8月1日の自民党憲法改正推進本部で議論された改憲案は4項目。(1)自衛隊の存在を憲法に明記(2)高等教育の無償化(3)緊急事態条項(4)合区解消だ。(4)以外は異論が噴出した。

 (1)は、憲法の根幹である平和主義を覆すものだ。

 憲法は、前文で平和主義を宣言し、第9条1項で国際紛争の解決手段として一切の武力行使と武力による威嚇を禁じた。その保障として第2項で戦力不保持と交戦権否定を定めた。近代戦争を戦い抜き、外征能力を持つ自衛隊を認めることは、第9条を撤回するに等しい。憲法改正の限界≠超えるものだ。

 (2)の教育無償化は、維新の主張にすりより、取り込むためのものだ。第26条は「すべて国民は、法律の定めるところにより、その能力に応じて、ひとしく教育を受ける権利を有する」となっている。「能力」は経済力ではない。無償化法を定めさえすれば済む。改憲の必要はない。第一、高等教育どころか中等教育である高等学校無償化を後退させたのは安倍政権と維新だ。この項目には、あまりのあざとさに自民党内からも批判続出だ。「法律でできるのに『国民受け』だけを狙うのは、憲法改正を目的化しているもので筋違い」(西田昌司参院議員)「憲法に書かなくてもできる。改憲で維新の賛成を得るために必要という議論は本末転倒」(石破茂元幹事長)(8/2東京新聞)。

 (3)は大規模災害時などを「緊急事態」とし、衆院議員の任期延長を認めるもの。「大規模災害」は一部野党の取り込みを狙った表向きの理由にすぎない。自民党憲法改正草案の緊急事態条項では、内閣に法律と同等の強制力を持つ「政令」制定権を認め、首相に戦前の天皇並みの「非常大権」を与えることを狙っている。9条改憲と合わせて「武力攻撃事態」など戦争法発動時の戦時独裁体制確立に必要な条文だ。

 (4)に至っては稚拙極まりない。合区は、一票の格差を裁判所が「違憲状態」としたために、人口の少ない2つの県を一つの選挙区としたもの。その解消は「地方の声を政府に届ける」ともっともらしい言い分を連ねる自民党内参院議員が言い出したことだ。利益誘導で集票してきた自民党議員たちのたわごとだ。

 憲法第43条は「両議院は、全国民を代表する選挙された議員でこれを組織する」と定める。国会議員は全国民の代表であって地域代表ではない。国と地方の関係にまつわる事の本質は、核燃料サイクルや米軍基地問題にみられるように地方自治をないがしろにしてきた政策の問題であり、憲法問題ではない。

「維新」も同罪

 地方自治を巡っては、維新がより悪辣(らつ)だ。5月の衆議院憲法審査会でも道州制を主張した。

 道州制は現在の47都道府県を十前後の「道」や「州」に統合するというもの。国民生活は市町村に丸投げし、道州には立法権と課税権を与え市町村間の財政調整機能を付する。国は外交・安全保障に特化する。維新は「立法権と課税権付与で地方自治が拡充する」かのように宣伝する。だが道州制導入に改憲の必要はなく法改正で済む。憲法第92条は「地方公共団体の組織及び運営に関する事項は、地方自治の本旨に基いて、法律でこれを定める」としているからだ。しかも道州制は、地方自治の拡充とは無縁だ。維新は二重のウソをついている。

 道州制導入をもくろむのは地方自治の拡充=住民生活の向上のためではない。地方自治体の権限を局限することと、国を社会保障の責任から解放することにある。沖縄新基地建設のような外交・安全保障政策=戦争政策に国民を無条件に従わせて中央集権体制を強化し、カネと軍事力による対外政策に国家財政を無制限に投入することを目的とする。

 安倍も維新も同じ穴のムジナだ。改憲をてこに軍事力とカネの力で、内外の権益を維持・拡大する。その権益は、国民生活とは全く無縁のグローバル資本と富裕層=1%≠フものだ。改憲は戦争と貧困の拡大・深化を招く。

 今、必要なのは改憲ではない。あらゆる分野での憲法理念の実現であり、それを阻む安倍内閣の即時退陣だ。

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