2017年08月18・25日 1490号

【イラク労働者共産党/サミール・アディルさんは語る/1極支配から多極支配への移行期/グローバル資本の野蛮さは頂点に/安倍政権打倒、9条改憲阻止は世界的課題/人間性を尊重する社会へ国際連帯で】

 「安倍政権打倒、9 条改憲阻止は日本だけの課題ではない」「人間性尊重の社会をめざす国際連帯の強化を」―占領・破壊が続くイラクで民主的再建をめざして闘っているイラク労働者共産党サミール・アディルさんが2017ZENKOin東京に参加し、訴えた。なぜ安倍打倒が国際的課題なのか、なぜ国際連帯が重要なのか。ZENKOでの発言、イラク平和テレビ局in Japanと本紙のインタビューから編集部の責任でまとめた。


力関係が変わる

 世界で今何が起こっているのか。資本主義は、国籍、民族、宗教などの分断を利用し、労働者と貧困者の苦しみを踏み台にして、腐敗した一握りの富める者の利益のために世界を破壊している。イラク、シリア、イエメンなど中東では何百万人もが家を失い、多くの女性、子ども、若者が命を失っている。インフラは壊滅的被害を受け病気が蔓延(まんえん)。誘拐殺人、公開処刑まで広がっている。人類は暗黒の中にいる。

 ブルジョア支配は1極支配から多極支配への移行期にある。これが、テロとの戦い、対IS(イスラム国)戦争を名目とした破壊、殺戮(さつりく)、荒廃を生み出している。

 2010年末チュニジアで、続いてエジプトで革命が起き、資本主義を大きく揺るがした。人びとのスローガンは「自由、尊厳、豊かさ」。貧困をもたらしただけのIMF(国際通貨基金)プロジェクトなどを拒否する反IMF、反世界銀行の闘いだった。

 この革命は中東における政治的力関係すべてを変えた。ロシア・中国・米国・英国はこの革命に乗じ、新たな政治システムをつくろうとした。

 エジプトは過去30年来、親米だった。しかし今、ほとんどの政策・政治システムは親ロシアになった。革命後、米オバマ政権は多額の資金を投入してイスラム主義政治勢力(ムスリム同胞団)を支援し、北アフリカを支配させようとしたが、失敗した。シシ国防相と軍がムスリム同胞団を攻撃し、権力奪取。米国はこれを非難、ロシアは支持した。

 シリアで起きていることも同じだ。米英仏はロシア、中国側のアサド政権を転覆しようと考えた。シリア国内のあらゆるイスラム主義私兵集団を精神的政治的物質的に支援した。ISはこれらすべての私兵集団政党から生まれた。

 米国の影響力は低下し、ロシア・中国の影響力は増大している。これが移行期だ。あらゆる国を巻き込んだ紛争があり、誰が勝利するかは誰にも見通しがつかない。冷戦期は、「俺はソ連派、お前は米国派」とはっきりしていた。しかし今は何が起きているのか分からない。だから、ISに対する戦争にも終わりがない。野蛮さは頂点に達している。

軍事力を背景に

 それはアジア太平洋地域においても同じだ。「北朝鮮が米国の脅威」というのは、北朝鮮単独でそうなのではなく、背後にロシアと中国がいるからだ。このことが米国の支配層を脅かし、クレイジーにさせている。米国の支配層には2つの流れがある。トランプが代表する流れは「ミリタリズム(軍事力)こそが覇権を取り戻す」と考える。

 日本の政権は今が(多極化への)移行期であり、したがってミリタリズムなしに新たな市場は獲得できないということを非常によく知っている。ロシアはミリタリズムによって強力な経済を築いている。カタールやサウジアラビアは、ロシアとの間で兵器購入の契約を交わしている。兵器を必要としているからではなく、ロシアに武力侵略されない保証を手にするためだ。トルコもそうだ。先週、エルドアン政権はロシアからS400ミサイルを購入する契約をした。去年、国際情報誌フォーリン・アフェアーズの記事は「ロシアのミリタリズムはロシアの外交政策に多大に奉仕し、また経済の拡大にも貢献している」と述べた。

 だからこそ、日本は憲法9条を変えようとしている。再び世界再分割の時代。日本は、世界中に市場を拡大している中国には負けていない、米国にさえも負けていないと思っている。しかし、日本に欠けているのは軍事力、海外に展開できる軍事力だ。軍事力なしには新たな市場を開拓することはできない。そう考えているのだ。

資本競争の結果

 移行期に至ったのは、米国経済力の低下だが、グローバル資本主義体制が行き詰まったからではない。資本主義システム―競争そのものだ。歴史をたどれば、20世紀初頭までは英国が、第2次世界大戦後は米国がリードした。今日では、プーチンが言ったように、「中国は強い経済を持ち、ロシアは強い軍隊を持っている。だから、米国だけでなく誰もわれわれを打ち負かすことはできない」。多くの国が米国と競争している。独、日、中、インド、ブラジル、南アフリカ。これらの国はG20の国々だ。10年前にはこれらの国の姿はなかった。

 03年のイラク戦争のときロシアには力がなかった。しかし、06年にはロシアはジョージア(グルジア)に侵攻した。14年にはクリミアを併合した。シリアに軍隊を派遣している。ロシアは国連安保理で、シリアに対する多くの決議に拒否権を行使し、反対している。しかし、03年には米国は安保理決議なしにイラクに侵攻した。今日ではロシアや中国が米国に対抗している。グローバル資本主義は弱くない、強い。それを弱体化させる唯一の道は、社会主義だけだ。

消えた国際連帯?

 イラク戦争が始まる前(02年〜03年)、ロンドンの200万人デモをはじめ全世界で数千万人がイラク戦争に反対し、行動した。あのときの国際連帯が、いまなぜ消えてしまったのか。

 それは支配階級が対テロ戦争のシナリオの中で、ロンドン、パリ、ボストンなど各地でテロ事件を起こし、民衆に恐怖を与え、あきらめさせ、分断したためだ。

 対IS戦争の時期、ヨーロッパでは反戦デモが全くなかった。政府に対し「イスラム主義政治勢力への支援はもうたくさんだ。ISはお前たちが作り出したものだ」と言うデモが。パリでテロがあったとき、2種類のデモしかなかった。イスラム教徒や移民への差別をあおるデモとイスラム教徒を守れというデモだった。誰も自国政府を批判していなかった。

 欧州で極右政党の支持が高まっている。08年の米国の経済危機以来、ブルジョア陣営内に左派がいなくなったからだ。思い起こそう。ヒトラーはなぜ選挙で票を集めたか。1929年の世界恐慌だ。

 経済危機が第一の理由だ。第二にプロパガンダ。経済危機の原因は移民だ、と宣伝した。こうしたでたらめのプロパガンダを信じる人が多いのは、欧州でも全世界的にも共産主義勢力が弱いからだ。

 「国際的な戦線が消えてしまった」と言ったが、人びとや活動家がいなくなったという意味ではない。以前のような展望が見えていないということだ。

展望を語ろう

 いまヨーロッパに行くと、誰も国際連帯について語らない。「もしISを撲滅したいのなら、もし人びとの間にある恐怖を一掃したいのなら、自国の政府に圧力を加え、イラクのアバディ政権に対する精神的物質的支援をやめるよう求めるべきだ」と言わなければならない。

 日本では、核兵器のない地域を築きたいのであれば、安倍の路線を粉砕しなければならない。安倍の政策は、第一に憲法を変えること、第二に軍隊を海外に送ること、第三に核兵器を持つこと。この路線を粉砕すれば、われわれは勝利を手にすることができる。この展望を人びとに教育することだ。とくに活動家、運動のリーダーたちを教育する。この展望なしには、国際的な戦線は消えてしまう。

 どの国に属しているのかに関係なく、われわれは人間だ。米、英、仏、イラク、シリア、リビア、イエメンで起こっていることに人間として注目している。福島で家族を失った人、あるいは難民たちが安全を求めて地中海を渡ろうとして、多くの子どもたちが溺れ死んでいることを目にするにつけ涙を流す。このことは、資本主義がつくりだした犯罪に対して、なおこの世界の良心が抵抗しているからだと思う。

  *  *  *

 今回の全交に参加し、多くの経験を得た。閉会集会で『We Shall Overcome』の歌が始まったとき泣いた。初めてのことだ。今年の全交の何が意義深いかと言えば、一つの目標に焦点をあて、すべての課題をカバーしつつ、議論をその目標に到達させたこと。ポイントは明確だ。安倍の路線を打ち倒し、安倍を辞めさせる(「安倍はやめろ」)。

 われわれは新しい時代に生きている。資本主義システムとブルジョアが押しつけるバーバリズム(野蛮)か、人間性とよりよい世界か。われわれの選択肢は明確だ。

 だが、よりよい世界は自動的にはやって来ない。われわれは闘わなければならない。一所懸命活動しなければならない。今年、われわれは決意を固めた。安倍を倒す。それは、国際的な戦線にとって大きな勝利になる。

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