2017年08月18・25日 1490号

【どくしょ室/在日米軍 変貌する日米安保体制/梅林宏道著 岩波新書 本体880円+税/非軍事の安全保障は可能】

 本書の目的は3つある。

 第一は、「日米同盟」が「緊密で良好な日米関係」として使われていることへの異議申し立てである。「日米同盟」とは軍事同盟であることの認識を取り戻したい、とする。

 第二は、平和憲法と平和主義を世界に誇る遺産として守り続け、世界的な共感を得ることだ。筆者は、そこにある2つの負の側面―「専守防衛」といいつつ在日米軍の攻撃力に依存していること、「唯一の被爆国」といいながら米国の核兵器の傘の下にいること―を直視すべきと言う。その克服に関心を払っていることを世界に伝え、共感を深めなければならない。

 第三は、軍縮を加速させるための政策的代替策の提示である。「軍事力に依存しない安全保障が現実の国際政治のなかで可能であることが、もっともっと具体的に語られるべき」とする。

 3つの目的は各章でどう展開されているのか。

 序章では、在日米軍と日米軍事同盟の現状、米軍の世界展開の概念と実態を概観する。在日米軍の枠組みとなる日米安保体制の歴史と現状、米軍に支配されてきた日本の防衛政策の歴史を第1章でたどる。そして、在日米軍の現在の全体像を第2章で描く。第3章では在日米軍の活動実態、具体的には沖縄の海兵隊、第7艦隊、核兵器問題がとりあげられる。第4章では、基地問題が市民生活に与えている悪影響にも言及。最終章では、軍事力によらない安全保障への道を考察する。

 本書の特色は、「軍事力に依存しない安全保障」の可能性を説く第三の目的にある。朝鮮のミサイルや中国の海洋進出など「安全保障環境の変化」を理由に日米同盟の強化が進められる中で、「軍事力に依存しない安全保障」は現実的なのだろうか。

 現実性の実例として、非軍事の安全保障の道を模索するモンゴルが紹介される。1988年の国連総会で「モンゴル国の国際的安全保障と非核地位」という決議が採択された。その後も同じ決議が繰り返し採択されている。ともに核保有国である中国とロシアに挟まれたモンゴルは、非核兵器地帯の地位にあるとの宣言を国際的に認めさせた。外交によって安全保障を確保する実例なのだ。

 本書は、北東アジア非核兵器地帯構想を提唱する。日本、韓国、朝鮮、モンゴルの4か国の非核国で非核兵器地帯を構成し、それを米国、ロシア、中国の核保有国が支持するというものだ。2005年の6か国会議の共同声明では「(米国が朝鮮に対し)核兵器又は通常兵器による攻撃または侵略を行う意図を有しない」と明記されていた。こうした実績をさらに深め重ねていけば、先の構想は現実的なものとなる。

 好戦勢力と対抗するためにも、本書が示唆するように非軍事の可能性を明らかにしていくことが重要だ。
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