2017年09月01日 1491号

【グアム沖ミサイル発射は「存立危機事態」?!/安倍戦争法の本音あらわに】

 8月10日、衆院安全保障委員会で小野寺防衛大臣は朝鮮のグアム沖ミサイル発射計画について「存立危機事態の認定もありえる」と述べた。これは、武力行使への道を限りなく広げる戦争法の狙いをあらわにした発言だ。

 戦争法制定時、安倍政権は「日本と密接な関係にある他国に対する武力攻撃が発生し、これにより日本の存立が脅かされ、国民の生命、自由および幸福追求の権利が根底から覆される明白な危険がある」事態を「存立危機事態」と定義した。そして(1)「存立危機事態」が発生し、(2)他に適当な手段がなく、(3)必要最小限の実力行使であることを「集団的自衛権」(注)を含む武力行使の「新3要件」とした。

戦争法すら逸脱

 小野寺発言は、違憲の戦争法すら逸脱している。

 政府は、戦争法制定に至る与党協議で「米国に向け日本上空を横切る弾道ミサイルの迎撃」を例に挙げた。想定したのは、グアムやハワイだ。今回、朝鮮人民軍が発表したミサイル発射計画は、弾道ミサイル4発をグアム沖30q〜40qに着弾させるというもの。国の領域とされる領海は国際海洋条約上、干潮時の陸地から12海里(約22・2q)だ。領海外への着弾は「武力による威嚇」であっても武力攻撃ではない。米韓日も軍事演習で今も砲撃を行っている。

 小野寺は「米国の抑止力・打撃力の欠如は日本の存立危機にあたる可能性がないとは言えない」という。

 抑止力・打撃力の欠如とは(1)グアムの米軍基地に着弾し(2)米軍基地が機能しない程度に破壊されることに他ならない。グアム沖への着弾ではこうした事態は起きない。しかも米海軍第7艦隊は健在だ。

 弾道ミサイルの日本上空通過では「日本国の存立が脅かされる」ことも「国民の諸権利が根底から覆される」こともなく、それらの「明白な危険性」は皆無だ。

 内閣府は、戦争法制定過程で「歯止めがあいまいで政府の判断次第で武力の行使が無制約に行われるのではないか」との問いに、「新3要件が憲法上の明確な歯止めとなっている」と答えた。小野寺答弁は、政府が「制約」と宣伝する「新3要件」が実は制約などではなく、拡大解釈し放題であることを裏付けるものだ。日本や米国本土から遠く離れた場所でも、政府が「存立の危険がある」と言えば武力行使でき、歯止めなど存在しないことを明らかにした。これが安倍政権の戦争法制定の狙いである。

対話が安全を守る

 朝鮮によるミサイル発射作戦の公表を受け、防衛省は12日、上空を通過するとされる島根、広島、愛媛、高知の4県に迎撃ミサイルPAC3を配備した。「ミサイルがコースを外れ、国内に落ちそうなときに迎撃する」というのが表向きの理由だ。

 これは、むしろ国民生活を危険にさらし、武力衝突のリスクすら増大させる。

 まず、発射後コースを外れたと判断してから迎撃するなど、時間的にも技術的にも地理的にも不可能だ。そもそもPAC3の最大射程は20km。万が一に弾道ミサイルが射程範囲に入ってきて命中したら、破片の飛散やコースが変わることで、わざわざ被害を甚大にする結果になりかねない。

 重大なのは、日朝開戦≠ヨの危険をはらむことだ。

 弾道ミサイルへの攻撃は日本からの武力行使となる。「コースが外れたから破壊した」というのは、日本側の主張にすぎず、朝鮮からすれば日本ではなくグアム沖を狙った弾道ミサイルへの攻撃つまり、日本による先制攻撃との事実だけが残る。

 小野寺の「存立危機事態」認定への言及は、いつでもどこででも集団的自衛権を発動するための布石だ。迎撃ミサイルの配備や自治体、メディアを巻き込んだ避難対応の宣伝は、対朝鮮の危機感をあおり、自衛隊の存在と武力行使への国民の心理的ハードルを下げ、9条改憲を正当化するためだ。

 事態をここまで深刻にしたのは、トランプ米大統領の妄言(もうげん)であり、それを後押しする安倍首相だ。

信頼醸成と緊張緩和を

 トランプに対して中国・ロシアは慎重対応を呼びかけ、韓国・文在寅(ムンジェイン)大統領は「朝鮮半島で再び戦争の惨状が繰り広げられるのは容認できない」と申し入れた。東アジアから遠く離れたドイツのメルケル首相も「米朝の対立に軍事的解決策はない。ドイツは非軍事的解決に積極的に関与する」と表明している。

 市民の生命、財産、幸福追求の権利を守るために必要なのは、ミサイルの迎撃ではなく話し合いによる信頼醸成と軍事的緊張緩和だ。

 東アジアを戦争の危機にさらす安倍を即時退陣させ、日本政府の戦争政策をやめさせなければならない。

------------------------
(注)集団的自衛権

 自国が攻撃されていないにもかかわらず他国への攻撃を自国への攻撃とみなし「自衛権の発動」として、武力で反撃する権利。相手国にとっては、集団的自衛権を発動した国からの先制攻撃となる。

ホームページに戻る
Copyright Weekly MDS