2017年09月01日 1491号

【労働者排除の労働政策基本部会/ILOの三者構成原則無視】

 安倍内閣は「人づくり革命」という新看板を打ち出したが、労働者・市民の視点は全くない。そのことを象徴する一つが、労働者代表を排除し、国際基準も無視した厚生労働省「労働政策基本部会」の設置である。

 厚生労働大臣等の諮問に応じて、労働政策に関する重要事項の調査審議を行い厚労大臣等に意見を述べることができる労働政策審議会(労政審)に7月31日、新たに労働政策基本部会が設置され初会合が開かれた。

 労政審はこれまで、分科会や部会を含めて公労使三者同数の委員で構成することを原則に運営されてきた。これは国際労働機関(ILO)の三者構成原則に基づくものだ。

 第一次世界大戦(1914〜1918年)とロシア革命(1917年)を契機に、労働者を抑えつけて戦争やあまりに過酷な搾取を行えば資本主義社会そのものが存続できないとの危機感が各国の政府・資本家に共有されるようになった。1919年に設立されたILOは、各国の正式代表に政府だけでなく労働者と使用者の代表を加えた。1944年のフィラデルフィア宣言は、各国内で労使代表が政府代表者と「同等の地位」を持ち、自由な討議および民主的な決定を行うよう呼びかけた。1976年に三者協議条約が採択され、日本も2002年に批准している。

運営も全く非民主的

 しかし、基本部会は三者構成とせず、委員は「公益を代表する者のみ」とされた。15人の定数に対してなお3人が未定だ。7月31日の初会合では、4人が欠席し、出席者8名のうち1人が途中退席。スタートから定数の半数以下という非民主的運営が公然と行われている。決まっている12人のうち使用者側に属する委員が4人、労働者側の関係者が1人、他は御用学者などが大半を占めており、極めて不公正な構成である。

 第1回の基本部会で、塩崎前厚労大臣は「(昨年)8月には厚労省が『働き方の未来2035』をまとめた。『科学技術の進歩が労働における時間的・空間的制約をなくす。個々人の選択肢を広げる。そのための多様化をすすめる。労働政策決定プロセスも見直すべき』とされた。そこで、旧来の労使の枠組みにかかわらない課題では、公労使同数にこだわらない政策審議をすることとし、基本部会を設置した」と三者構成原則の否定を正当化した。

 「働き方の未来2035」は、技術革新によって働き方の「自律化」「多様化」「流動化」が進み、「2035年には、個人がより多様な働き方ができ、企業や経営者などとの対等な契約によって、自律的に活動できる社会に大きく変わっている」とする。この「変化」を前提に、「今までの労働政策や労働法制のあり方を超えて、より幅広い見地からの法制度の再設計が出てくる」「すべての働くという活動も、相手方と契約を結ぶ以上は、民法が基礎となる」と強調。労使の力関係の違いを前提に、契約自由の民法原理を制約することによって労働者を保護するという労働法の規制を真っ向から否定する。

 しかし、どれほど働き方の「自律化」が進もうと、労働者と資本の力関係が対等になることはあり得ず、労働法の諸規制なしに労働者の権利が守られることはない。

労働規制破壊を公言

 初会合では、通訳・翻訳業やセーター編み手など非雇用型の労働者を活用しているイー・ウーマン社佐々木社長、気仙沼ニッティング社御手洗社長が「『働き方の未来2035』実現の具体的な障害になる労働法規制のリストを次回には提出せよ。何を変えるかハッキリさせる。そうすれば、各分科会の役に立つ」と露骨な主張を繰り返した。さすがにこれには「基本部会は分科会や部会の司令塔ではない」と御用学者委員、岩村東大教授までけん制した。

 塩崎前厚労相が内閣改造直前に労働法制破壊の起爆装置≠仕掛け、それを安倍最側近の一人、加藤現厚労相が引き継いでいる。

 労働者代表を排除し、国際基準である三者構成原則を踏みにじる基本部会など、断じて認められない。臨時国会での、残業代ゼロ・働かせ放題・過労死ライン合法化法案を許さない闘いとともに、労政審民主化を求めよう。

 
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