2017年09月01日 1491号

【ZENKO介護分科会・厚生労働省要請から/当事者の意思決定を尊重する介護を/寄稿 NPO法人くまハウス 大久保信之】

 介護制度の改善をめざして7月28日ワンデーアクションで厚生労働省要請が、30日ZENKO分科会で討議・交流が行われた。NPO法人くまハウス(東京・足立区)の大久保信之さんから報告が寄せられた。

インセンティブ改革?

 厚労省交渉には部屋が満杯になる25名が参加した。

 来年度の制度「改正」は3割負担の導入とインセンティブ(意欲喚起)改革が大きな柱だ。後者は、各自治体が要介護度の改善に努力したか、その結果で交付金を決定するというもの。「自立支援」の「努力」で要介護度が軽くなり、また介護保険のサービス利用が必要なくなって介護費用の支出が減った等々の「成果」を上げたら交付金を増やす。すでに岡山市は3年前から「デイサービス改善インセンティブ事業」で評価指標を設け、改善度合いにより通所介護事業所の表彰や報奨金交付を実施している。

 現在、来年度に向けた介護報酬議論の中で介護事業者へのインセンティブが検討されているという。こうした動きに対し私たちは「自立支援の自己目的化は撤回すべきではないか」と要請した。

 厚労省は「プロセス指標とアウトカム(結果)指標を組み合わせる考え。決して結果だけを見るわけではなく、プロセスを重視する」「自治体が各事業所のことを把握しているのかを見る」など、逃げの姿勢に終始した。参加者は「全国的には結果を見るように伝わっている。プロセス重視ならそのメッセージを全国に流してほしい」「アウトカム指標はつけないで。改善可能な人を優先する差別・選別につながる」「市民の立場からは、対象になる人の状態に合った、その人らしい生活ができることを最も望んでいる」と反論し、自立支援の自己目的化は介護のあり方を崩すものと主張した。

 厚労省は「おっしゃる通りです」と答えざるを得なかった。しかし、すでに実施している自治体の取り組みに対する明確な評価はなく、「指標」はこれから示されるとの説明にとどまった。先行実施の自治体がある中、評価には注意が必要だ。

 後日分かったことだが、岡山市では前述の事業に300の通所介護事業所のうち164事業所が参加している。私は、人材不足の中で結果を出すために労働強化となり、利用者には望まないプランが強いられる一方、参加できない事業所は運営が続けられなくなるのではと不安を感じた。

 交渉を通して私は、利用者である高齢者の意思決定を尊重し、その人らしい生活ができるよう支援することの大切さを改めて確認した。同時に自立支援のあり方、ケアプランのあり方、尊厳ある暮らしとは何かを考え、共有できる仲間を広げていく必要性を痛感した。

介護実践で示す

 分科会は、視覚障害のデイサービスの利用者とスタッフによるコーラスでオープニング。美しいハーモニーに感動し、涙を流す人も見られた。代表者は障害者と高齢者へのサービス提供を同一事業所で行える改正について「視覚障害のデイサービスではマンツーマンの介護をしている。一歩が踏み出せない人への細やかな対応が必要。高齢者と同じ対応ではないため、とても危惧している」と語る。

 私は小規模多機能で取り組んだ“看取り介護”の実践を報告した。また、大阪市、西宮市からは小規模デイや訪問介護の実践が報告された。大阪市の集団指導や西宮市の地域ケア会議で、介護保険のサービス利用が必要ない「卒業プラン」の指導が行われている実態も訴えられた。交流では、98歳の独居の方の「今の家で過ごしたい」との意思を尊重して支えてきた訪問介護の実践が注目された。

 私が強調したのは、尊厳ある暮らしを築くことに逆行する動きには、はっきり間違っていると主張することの大切さだ。インセンティブ改革が自治体に身体的な自立優先の考えを浸透させている中、自立支援とは何か、尊厳ある暮らしとはどういうものかをしっかりと主張できるようにしておく。さらに実践しなければならないと考えている。

 4月から利用していた若年性認知症の男性利用者がデイサービス利用時の暴力行為がひどくなり、入院という結果になってしまった。一か月過ぎて家に帰りたいと訴え、時には暴れて抑制されている。妻はすぐにでも連れて帰りたいと訴えている。事業所の目標と現実の中で、納得できる対応が求められている。

共感の広がりめざして

 今回の分科会を含めて今年、3度の集いを行ってきた。秋からは新しい署名に取り組むことも決議された。私は、尊厳ある暮らしをめざす実践を共有し確認しあうために、事例検討の場を作ろうと声をかけている。制度改悪を許さない場として、小規模ケアをアピールする集いを地域で開催できるようにしたい。秋の厚労省要請ではインセンティブ改革にはっきり反論できる主張や事例を示していきたい。



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