2017年09月01日 1491号

【どくしょ室/裸足で逃げる 沖縄の夜の街の少女たち/上間陽子著 太田出版 本体1700円+税/貧困と暴力の世代間連鎖】

 各種統計は沖縄における貧困の深刻さを示している。とりわけ、子どもの貧困率は29・9%(15年度)と、全国平均の2倍近い。それでも私たちの中には「地域共同体による助け合い精神が残る地域」といった沖縄イメージがある。テレビドラマなどメディアの影響も多分にあるだろう。

 だが、現実の沖縄は決して子どもを大事にする社会ではない。そう語る著者は教育学者として、沖縄の風俗業界で働く若者たちの調査・支援活動を続けてきた。本書は「私の街の女の子たちが、家族や恋人や知らない男たちから暴力を受けながら育ち、そこからひとりで逃げて、自分の居場所をつくりあげていくまでの物語」である。

 本書に登場する女性のほとんどは10代で出産した経験を持つ。1人で子どもを育てるためにキャバクラ等の風俗業界で働いてきた。そんな彼女たちの生育歴に共通するのは、貧困、放置、そして暴力である。

 翼は5歳の頃、両親が離婚した。子どもの頃の記憶は、いつも子どもだけで家にいたこと、家にはご飯がなかったことだ。中学卒業後キャバ嬢になり、16歳で出産する。相手の男は生活費を一切家に入れず、酒を飲んでは翼に暴力をふるった。助けてくれる人は誰もあらわれなかった。

 生まれてすぐに両親が離婚した春菜は、何週間も夜間保育所に放置されるなどして育った。15歳で家出をし、生活費を稼ぐためほぼ毎日体を売っていた。客から暴行を受けたこともしばしばある。

 「沖縄は貧困社会であること、そして貧困は、まぎれもなく暴力の問題だということです」(2/15琉球新報)と著者は言う。困窮し孤立した家族の中で暮らす人びとの自尊心は傷つきやすく、ほんの些細な出来事で暴力が発動する。暴力を受けた者は自分より弱い者に暴力をふるう。かくして「暴力は循環し、世代を超えて連鎖する」。

 逃げ出せる者は逃げ出すが、自分の意志で逃げたので、逃げた先で起こった出来事も自分のせいだと思っている。助けも求めない。手を差し伸べてもらえないことを悟っているからだ。

 それゆえ「同じ境遇の他者に対しても、『自己責任だ』という冷たい視線を向けるし、他人に対して不寛容」(2/17朝日)になってしまう。著者は「下からの自己責任とでもいうべきことが、社会の一番厳しい層で起きていることを、私たちは黙殺し続けている」(同)と指摘する。

 他者の痛みに対する感受性の欠落−−本書が描き出す「貧困と暴力の日常」は現代日本の縮図だ。戦争によって生活基盤を破壊され、軍事基地を押しつけられてきた沖縄ではそれがより過酷なかたちで表れる。著者が言うように、〈裸足で逃げ〉た女性たちの生活には、沖縄の歴史が映りこんでいるのである。   (O)
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