2017年09月08日 1492号

【朝鮮ミサイル発射と米韓軍事演習/軍事緊張利用する戦争屋たち/東アジア非核化の声を】

 米韓合同軍事演習が8月21日から31日までの予定で、朝鮮民主主義人民共和国(朝鮮)の目と鼻の先で行われている。朝鮮はグアム島沖着弾予定の弾道ミサイル発射実験を公言、29日には北海道上空を通過するミサイル発射など、軍事緊張が続いている。この事態を安倍政権は戦争扇動と軍備拡張に利用している。戦争屋たちの手足を縛るため、東アジア非核化の対案をつきつけよう。

対朝鮮軍事征服訓練

 「乙支(ウルチ)フリーダムガーディアン(UFG)」と称する軍事訓練が8月21日開始された。韓国軍5万人に米軍1万7500人、朝鮮国連軍司令部(オーストラリア、カナダ、コロンビア、デンマーク、ニュージーランド、オランダ、英国の7か国が派遣)が参加する朝鮮征服訓練だ。

 朝鮮人民軍と国連軍(実質米軍)は1950年戦闘を開始し(朝鮮戦争)、53年、休戦協定に調印した。だが、新たな兵器を持ち込まないことなどを定めた休戦協定は、米軍の核兵器搬入などにより早々と破られている。戦闘状態にあるのだ。

 朝鮮征服訓練はUFGの他に、野外機動訓練「フォールイーグル」、指揮所訓練「キーリゾルブ」が毎年3、4月頃同時に行われている。

 その中に、金正恩(キムジョンウン)体制の転覆、指導部の殺害を謀る「斬首作戦」が含まれている。訓練にはウサマ・ビンラディンを殺害した特殊部隊が参加しているとも言われている。

 対する朝鮮は、米本土を狙える核ミサイルの開発で対抗してきた。7月28日に発射した「火星14型」ミサイルは、射程1万`bの大陸間弾道弾で米国北西部に到達できる。8月24日には、「火星13型」の開発を示唆する写真を公表。3段式、固体燃料の新型で、ワシントンが射程に入る1万2千`bの性能を持つと言う。そして29日のミサイル発射だ。

 米トランプ、朝鮮金正恩の一挙一動に振り回されてはならないが、戦争が終わっていない両軍が核兵器を突きつけ合っている。「対話による和平」を確かなものにしなければ、挑発的な言動が最悪の事態を招く危険性を軽視してはならない。

「口撃」は国内向け

 戦争屋たちが「勇ましい言葉」を発するのは、対外的な威嚇効果よりも、国内効果を狙うものだ。

 トランプ政権は発足当時からの不安定さを引きずっている。主要スタッフの相次ぐ交代・辞任はとどまるところを知らない。限られた支持層である一部白人労働者をつなぎとめるためにヘイト団体を擁護する発言を行い、反トランプの声を広げた。また「政府機関が閉鎖しても国境に壁をつくる」とぶち上げるトランプに共和党からも表立った批判が起きている。「アメリカファースト」を掲げ、在外米軍の引き上げまで口にしながら、結局、アフガン増派を認めるなど、軍産複合体主導の政策に回帰している。トランプには「強い大統領」を演じ続ける必要がある。

 朝鮮の金独裁体制は、反米のみが政権の支えだ。父親である総書記金正日(ジョンイル)が唱えた国民の生活向上より軍事優先(先軍)政策を継承強化し、核ミサイル開発を求心力にしてきた。昨年は、先軍節前日(8月24日)に潜水艦から弾道ミサイルの発射実験を行い、建国記念日(9月9日)に核実験を行った。今年は、ワシントンを狙う新型ミサイル開発をほのめかし、6回目の核実験が予想されている。餓死者が出ると言われる状況でも、多額の国費を投じ米と対等に渡り合うリーダー像を貫こうとしている。

危機≠ノ乗じる日本政府

 安倍政権はトランプ政権以上に朝鮮危機を悪用し、軍拡へと動いている。防衛省が8月23日に出した来年度の概算要求には対朝鮮ミサイルを口実とした高額な装備が並んだ。イージス艦に搭載する新型ミサイル「SM3ブロック2A」取得費472億円。現在のミサイルの到達高度500`bを1万`b以上にするという。

 なぜ射程を延ばす必要があるのか。米本土に向けた大陸間弾道弾を打ち落とすためと言う。だが朝鮮から米本土への飛翔ルートは日本上空を通過しない。米本土防衛のために、在日米軍ではなく自衛隊が領空外で撃ち落とすのはまさに先制攻撃だ。陸上部に設置されるイージス・アショアも同様。レーダーなどを含むシステム全体の額となれば限りがない。しかもミサイルシステムを米国から購入するのは日本だけである。韓国のTHAAD(高高度ミサイル防衛システム)にしても、NATO(北大西洋条約機構)のミサイル防衛システムも、米軍のものだ。

 日米外務防衛担当閣僚会合が8月17日、ワシントンで行われた。この場で小野寺防衛相は「北朝鮮という喫緊の課題が存在しており、同盟の能力を強化していくことで一致した」と日米軍事一体化を表明した。朝鮮は口実にすぎない。実際、朝鮮のミサイル対策というよりは、ユーラシア大陸の内部にまで届くミサイル群を日本が持つことになる。韓国に配備されたTHAADを中国が脅威と感じるように、ミサイルの射程に入るロシアは日本のミサイルシステムに強く反発している。軍事緊張は高まるばかりだ。

   *  *  *

 「平和的解決」を口にする関係国政府は勢力争いに終始している。6か国協議議長国中国自身、対話への動きをつくらない。自らも海洋進出を狙い、海軍力の増強を進めている。ロシアは朝鮮へ石油支援を行うとともにロケットエンジン技術の提供が疑われるなど、勢力圏への取り込みを確かなものにしようとしている。

 戦争屋たちにとって、軍事緊張を維持することが自らの利益となる。だが「武力による威嚇」は国際紛争の解決に取ってはならない手段だ。安倍政権の「制裁強化」「威嚇して放棄させよ」との政策は憲法前文に反し、9条が禁じるものだ。「対話で和平を」「東アジアの非核化を」の声を強めることが安倍改憲を阻む力となる。アジア民衆と連帯するスローガンになる。



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