2017年09月15日 1493号

【朝鮮のミサイル・核を自衛隊侵略軍化に利用 平和、安全に逆行する敵基地攻撃論】

 日本の好戦勢力が今、「敵基地攻撃能力保有」を公然と唱え始めた。朝鮮(朝鮮民主主義人民共和国)の弾道ミサイル発射、核開発の加速を利用したものだ。軍事緊張を高める金正恩(キムジョンウン)政権の暴挙を絶好の機会に、大軍拡―侵略軍化を許してはならない。

敵基地攻撃を公言

 自民党はすでに3月30日、弾道ミサイルへの対処として「敵基地攻撃能力保有」を求める提言を安倍晋三首相に提出している。安倍は、旗振り役である検討チーム座長(当時)の小野寺五典を8月3日の内閣改造で防衛大臣に起用。小野寺は早速「自民党の提言を踏まえ、総合的にどのような対応が必要か検討していきたい」と述べ、保有への検討開始を示唆した。8月29日、朝鮮ミサイル発射を巡る国会審議では、自民党と日本維新の会が敵基地攻撃能力の保持を求めた。

 この場合の「敵基地攻撃能力保有」とは、朝鮮が弾道ミサイルを発射する前にミサイル基地を攻撃できる装備を持つことである。

 憲法第9条は、国際紛争の解決手段として武力による威嚇と武力行使を放棄し、戦力不保持、交戦権否定を定めた。9条の下で再軍備を始めた政府は「戦力ではなく自衛のための最低限の実力である」と居直り、自衛隊を「合憲」とした。そのため、自衛隊は他国の攻撃から国土・国民を守る「専守防衛」に徹し他国に攻め入らないという制限を課されてきた。装備面でも、戦略爆撃機、弾道ミサイルなど他国攻撃に特化した兵器類は持てないとしてきた。

 だが、政府・自民党は「専守防衛」の制約を突破する試みを捨てたわけではなかった。

 1956年、鳩山一郎首相(当時)は「誘導弾等による攻撃が行われた場合、座して自滅を待つべしというのが憲法の趣旨とするところだというふうには、どうしても考えられない」とし、他に手段がなければ敵基地攻撃は自衛の範囲内であるとの政府統一見解をまとめた。先制攻撃を「合憲」としたのだ。

 以降、日本政府は同様の答弁を繰り返してきた。自民党・石破茂元幹事長は2003年、小泉内閣の防衛庁長官として「ミサイルに燃料を注入し始めて発射の準備行為を始めたような場合は、攻撃の準備行為にあたる。法理上、基地を攻撃できる」と述べ、「自衛権行使としての先制攻撃」の時期にまで踏み込んだ。

 安倍は、戦争法で「存立危機事態」による集団的自衛権行使を認めた。56年政府統一見解と戦争法を結び付けて政府が「存立危機事態」と決めれば、法制上いつでもどこででも集団的自衛権行使としての敵基地攻撃を可能とする危険性が生まれている。

 兵器についても、戦闘爆撃機の航続距離を延ばす空中給油機や戦闘攻撃機発着用に改造可能な全通甲板(かんぱん)を持つ2万d級ヘリ空母を保有している。敵のレーダーをかわすステルス性能を持ち地上攻撃能力に優れたF35戦闘攻撃機も入手した。

ミサイル防衛のうそ

 自衛隊の現在の「ミサイル防衛」は、大気圏外で弾道ミサイルを破壊するイージス艦搭載のSM3により高度約500qで迎撃、撃ち漏らしたミサイルや破片を地上配備の誘導ミサイルPAC3で撃ち落とす2段階とされる。ピストルの弾をピストルで撃ち落とすようなもので、公表された実験・演習での失敗も多く、実戦での的中率は全く疑わしい。かりに第1撃を迎撃できても続く攻撃は防げない。小野寺自身も1基のミサイルに多数の爆弾を仕込む「多弾頭」なら打ち漏らすことも出てくると認めている。

 戦争屋たちは、これを自衛隊の侵略軍化の口実とする。打ち漏らす可能性があるのなら、万全を期すために発射前に叩け≠ニいう論法だ。すでに安倍政権はトマホーク巡航ミサイルのイージス艦搭載に向けた本格検討に入ったといわれる(5/8産経)。

 だが、巡航ミサイルを使っても発射そのものを阻止するのは不可能だ。「発射の兆候」を完全にはつかめないからだ。

 液体燃料を使うミサイルなら燃料注入に時間を要するが、固体燃料であれば燃料注入は短時間だ。朝鮮の中距離弾道ミサイル「北極星2」は固体燃料とみられている。

 また、実戦を想定したミサイル発射装置は、敵の攻撃を避けるため山間部や地下トンネルを移動できるようにする。軍事衛星でも捉えきれない。目標を捕捉できなければ巡航ミサイル誘導はできない。海中を常に移動する潜水艦発射型の場合は全くお手上げだ。

 こうしたことは、「先制攻撃能力保有」論者も百も承知。朝鮮のミサイルから守るために他に手段がない≠ヘ名分にすぎず、憲法第9条の下で先制攻撃能力を持つことそのものが狙いだ。

際限なき軍拡にノー

 防衛省は来年度予算概算要求に過去最大の5兆2551億円を計上し、「ミサイル防衛費」には今年度の3倍に近い大幅増を求めた。

 目玉は1基800億円という「イージス・アショア」の突然の導入だ。イージスシステムを陸上に配備し、日本全土をカバーするという。

 イージスシステムとは、レーダーなどのセンサーと攻撃システムをコンピュータでつなぎ、複数の標的を同時に破壊する。「こんごう」「あたご」など海上自衛隊イージス艦に搭載されている。

 ミサイル防衛がイージス艦とPAC3の2段階体制では、朝鮮のミサイルに対応する時にイージス艦は日本近海を離れられない。「北朝鮮の脅威」が、逆に「いつでもどこへでも海外派兵」の足を引っ張ることとなる。

 イージス・アショアは「ミサイル防衛強化」から導かれたものではない。トマホークミサイルを搭載し敵基地攻撃能力を備えたイージス艦の海外派兵フリーハンドが狙いだ。

 安倍には朝鮮のミサイルをとめる気などない。「脅威」を最大限利用し、大軍拡―自衛隊の侵略軍化を推し進めようとしている。際限のない軍事力拡大ではなく、対話・交渉だけが平和解決の道を開く。

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