2017年09月15日 1493号

【8・15文在寅韓国大統領演説 日本軍慰安婦・強制徴用問題の解決求める 「解決済み」と歴史ねじ曲げる日本政府・メディア】

強制徴用者の権利を明言

 韓国の文在寅(ムンジェイン)大統領は、8月15日の光復節(日本による植民地支配からの解放記念日)の演説で、「過去事(注)と歴史問題が韓日関係の未来志向的な発展の足かせとなり続けるのは望ましくありません」としつつ、「韓日関係の障害物は過去事それ自体ではなく、歴史問題に対する日本政府の認識の如何(いかん)にあるからです。日本軍慰安婦と強制徴用など韓日間の歴史問題の解決には、人類の普遍的価値と国民的合意に基づく被害者の名誉回復と補償、真実究明と再発防止の約束という国際社会の原則があります。韓国政府はこの原則を必ず守ることです」と国民に訴えた。

 また、8月17日の大統領就任100日目の記者会見でも、個人の請求権は消滅していないとした2012年5月24日の韓国大法院(最高裁)の判断を挙げ、「強制徴用者個人が三菱(重工業)など(徴用した)企業を訴える権利は残っているという意味だ」と説明。その上で「政府はそのような立場で過去の問題に臨んでいる」と明言した。

 1965年の日韓請求権協定第2条1項は「両締約国は、両締約国及びその国民(法人を含む)の財産、権利及び利益並びに両締約国及びその国民の間の請求権に関する問題が…完全かつ最終的に解決されたこととなることを確認する」と規定する。日本政府はこの規定を根拠に、「解決済み」との立場を変えていない。韓国の大統領が自らの言葉で「強制徴用者個人の権利は残っている」と表明したのは文大統領が初めてのことだ。

植民地支配下の強制動員

 日本は日清・日露戦争を通じて1910年に韓国を強制的に併合し、朝鮮半島を植民地にした。日本が戦争を広げていくなかで、朝鮮人を日本人化する皇民化政策を強め、朝鮮半島から物資や人間を総動員した。動員は甘言や詐欺、暴力を伴うものであり、「強制連行」と呼ばれてきた。

 韓国で「徴用」とは、こうした強制的な労務動員のことを指す。動員先は炭鉱、鉱山、軍需工場をはじめ軍事基地・発電用ダムの土木工事現場まで広範囲に及び、動員数は政府の公式記録でも約80万人ともいわれている(大蔵省管理局『日本人の海外活動に関する歴史的調査』通巻10、朝鮮編9等)。過酷な労働や事故、戦災で命を落とし、故郷に帰れなかった労働者も数多い。

 これが歴史的事実だ。

日本メディアの一斉攻撃

 文在寅大統領の今回の発言に対し、日本政府・外務省ばかりかメディアも一斉に批判・反発した。「歴史再燃防ぐ努力こそ」(朝日)「慎重さ欠く『徴用工』言及」(毎日)等々。共通して挙げるのが「盧武鉉(ノムヒョン)政権当時の2005年、協定の効力がどの範囲まで及ぶのか検証が行われた際に、徴用工問題は請求権協定で解決されたことが再確認された。文氏は、この問題を担当する首席秘書官として作業に加わっている」(8/16毎日社説)という点だ。

 2005年、当時の盧武鉉政権は日韓会談文書を全面公開し、同時に「韓日会談文書公開後続対策関連民官共同委員会」を組織し、「韓日請求権協定は基本的に日本の植民地支配賠償を請求するためのものではなく、サンフランシスコ条約第4条に基づく韓日両国間の財政的・民事的債権債務関係を解決するためのものであった」「日本政府・軍等の国家権力が関与した反人道的不法行為については、請求権協定により解決されたものとみることはできない」との見解を明らかにした。

 確かに、盧武鉉政権は強制動員被害者への一定の国内補償措置を講じたが、それは「韓日交渉当時、韓国政府は日本政府が強制動員の法的賠償・補償を認めなかったため、『苦痛を受けた歴史的被害事実』に基づいて政治的次元で補償を要求したのであり、このような要求が両国間無償資金算定に反映された」と見て、「道義的・援護的次元と国民統合の側面から、政府支援対策を講じ」(「民官共同委員会」)たものである。決して「徴用工問題は請求権協定で解決された」(毎日新聞)と認めたわけではない。

政府答弁とも矛盾

 そもそも、日本政府もこれまで「この条約上は個人の請求権を直接消滅させたものではない」(1992年2月、柳井俊二条約局長)と認めてきた。1999年には、ILO(国際労働機関)の専門家委員会が、日本による戦時中の強制労働は1932年に日本が批准済みであるILO29号条約(強制労働条約)に違反する強制労働と認定した。

 日韓請求権協定は植民地支配を清算したものではなく、被害者個人の権利を消滅させる効力もない。日韓両政府には、国際人道法違反である強制労働の被害者による人権回復闘争を妨げる権利はない。

(注)韓国で過去事とは、国家の誤った公権力行使により被害をこうむった事件、国家犯罪を意味する。

 
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