2017年09月15日 1493号

【3・11後の子どもと健康/保健室と地域に何ができるか/大谷尚子 白石草 吉田由布子共著 岩波ブックレット 660円+税/次世代に対する大人の責任】

 本書は、国が福島原発事故による放射線被曝の影響を認めず子どもたちの健康を守る対策をとらない今、養護教諭や地域、自治体が独自に取り組んだ成果を紹介し、意義を強調している。

 宮城県北部大崎地区の養護教諭たちは、事故発生直後から自主的に放射線量調査を実施し、測定の結果を校内マップにまとめて注意を呼びかけた。学校医との協力で健康調査項目を改善し、子どもの変化を長期的に観察していく体制を作り出し、地面のほこりを吸いやすい「組体操」をやめさせるなど地道に取り組んだ。

 常総生活協同組合も事故後いち早く放射線測定に取り組んだ。その結果、母乳からヨウ素検出、対象エリアの6割以上の土壌から「放射線管理区域」基準を超える高線量検出など、汚染が広がっている実態が明らかになった。母親たちは子どもの健康診断や給食食材の放射能検査を行政に求めた。しかし、政府は福島県外の健康診断を拒否した。

 国に期待できないなら自主的に検診しようと「関東子ども健康調査支援基金」がつくられ、希望者にエコー検査が実施されるようになった。しかし、日本甲状腺学会会長(事故当時)の山下俊一らの妨害で検診を断る医師が続出した。協力してくれた一人が島根の野宗(のそう)義博医師だ。「検診は5年、10年と継続していくことが大切です。そうすることではじめて、放射能の影響があるかないかを実証することができます」とは同医師の言葉だ。

 2016年に発足した「3・11甲状腺がん子ども基金」の支援対象患者をみると福島県内よりも、県外の患者の重症化が目立つという。福島県内では「県民健康調査」で早期発見患者が多いのに対して、県外では、しこり等の自覚症状が出るまで進行して発見されるからである。また、福島県内でも1巡目で発見されなかった患者が2巡目で多数見つかっており、「甲状腺がんはゆっくり進行する。1巡目の発見者は過剰診断の結果。被曝との関係はない」としてきた国・県側の論拠がくずれている。

 かつて森永ヒ素ミルク事件(1955年、ヒ素が混入した森永ドライミルクで1万数千人の被害児を生んだ事件)は、事件発生直後は「後遺症はない」とされ、企業名も伏せられていた。後遺症を含め被害実態が明らかになったのは発生から14年後。そのきっかけは大阪府堺市の養護教諭が重度の障がい児の生育歴に注目し、森永ヒ素ミルク被害を疑ったことだった。

 福島原発事故被害の実態は明らかにされていない。チェルノブイリの経験からも、健康被害は甲状腺がんにとどまらず様々な健康被害を引き起こす。被害を最小限にとどめていくためにも、子どもの健康を見守り続けていくことが重要となっている。それが大人たちの次世代への責任だ、と本書は訴えている。 (N) 
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